ブログ

  1. HOME
  2. ブログ
  3. ラジオカフェ
  4. 犬とあなたと珈琲と。Vol.35 岩﨑 勇人
 

犬とあなたと珈琲と。Vol.35 岩﨑 勇人

聞逃し配信中(オープニングや曲はカットされています)
ミキサー:レディオ湘南 高橋優佳

宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(毎週金曜 16:00~16:29)放送中

湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。ここで“宝物”の話をすると探し物が見つかるとか?…オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の愛犬“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。

今回のお客様は『有限会社ガラス工房デュー』の代表でガラス職人の岩崎勇人さん。街で見かける多くのガラス製品の制作や加工・彫刻を手がけています。「我々は芸術家ではありません。リクエストに応えていくのが仕事です。その積み重ねがクオリティになっていく。リクエストは千差万別だから、相手のイメージに合わせながら、それ以上のものにしていく。それが職人の技です』。収集癖・苦労癖・ガラス愛・猫愛・隣人愛に溢れる、厳しくて優しい、クラフトマンのご来店です。


―こんにちは、岩﨑さん、ようこそお越しくださいました。

岩﨑勇人さん(以下 岩﨑):こんにちは、お久しぶりです。噂通り、ワンちゃんがいるんですね。

―はい。「うり」と言います。来週17歳になるんです。よろしくお願いいたします。
岩﨑:それは元気ですね。

―ありがとうございます。今日はご来店いただけると聞いていたので、楽しみにしていました。

ガラスの世界37年。
その実績は半端じゃない!


―岩﨑さんは日本でも数少ないガラス職人さんであり、ガラス製品の制作、加工、修復、設置などを行う、有限会社ガラス工房デューの代表でもいらっしゃる。街で目にする、ありとあらゆるものを手がけられていますね。

岩﨑:自分の工房を持ってもうすぐ30年、ガラスの世界に入って37年ですから。本当に色々やってきて、今日も4件かな、制作してきましたよ。

―制作実績をホームページで見た時は「あれも、これも」と本当に驚きました。ホテルや飲食店、駅とか飛行場、有名な百貨店やテーマパークなどもやってらっしゃいますよね。例えば、東京駅の新ドームとか新都庁、ディズニーランドとか、ヒルトンホテルとか帝国ホテルでしょ。アパレルではルイ・ヴィトンやシャネルの看板、それから、ガラスのお墓や日光東照宮まで何百、何千でしょうか…。受賞歴も並べると明日になっちゃいそうですが、もともとは氷彫刻家でいらっしゃったと聞きました。

岩﨑:そうだね。25歳の時にキオスクで買った「アルバイトニュース」を見ていたら、「氷彫刻師募集」ってありまして、面接に行ったら親方に気に入られて弟子にしてもらえました。そこでね、地獄の徒弟制度を経験しながら2年半、それこそ死に物狂いで頑張りました。その時の親方が氷彫刻家の窪寺秀男という方だったんです。

同級生と同じステージで
話をしたくて


―「氷の彫刻師募集」というのが、とっても珍しいと思いますが、とにかく彫刻の世界に入られて…。その前からアートのお仕事をされたり、目指したりはしていたんですか?

岩﨑:高校の頃はロックをやっていたから、本当はベーシストになりたかったんだよね。その時の仲間はプロの世界に行ったやつもいますよ。でも、自分はラグビーの授業で左指を折ったり、耳コピできる聴力がないとか「これじゃあプロにはなれないな」って思ったんです。それで、この仲間と「ずっと変わらず付き合っていくにはどうしたらいいだろう」って考えちゃったのね。

自分はなにもないけど、何年か後に会ったときに絶対に愚痴ることだけはしたくなかったし、「俺は今こんな分野やってるんだ」って同じステージに立って話をしたかった。そして「長く続けられることはなんだろう」「組織は苦手だし…」って、消去法的に考えていったら「モノ作り」しかないなって思ったの。それがモノ作りの世界に行こうと思ったスタートです。

求人誌を見て
氷彫刻の世界へ


―なんだか既にかっこいいですね。専門学校などには進まれたんですか?

岩﨑:親の言うことを聞くふりして大学受験はしました。でも合格発表も見に行かずに「落ちたよ」って嘘ついて、バイトしながらデザイン学校に入ったんだよね。デパートの催事をする会社でバイトをして、手書きの看板を書いたりバイトは15コ位したかな…。それで25歳の時に「ちょっとこれ、年齢的にやべーぞ!」ってなって、必死になってアルバイトニュースを買ったら親方に出会えた。

―デザインは専門的に学ばれていたんですね。氷の彫刻の世界に入って、すぐに数々の受賞をされたようですね。

岩﨑:ところが、実際「さぁ、このままやるか!」って思っていた矢先だったんですよ。親方が目の前で死んだんです。まだ42歳でした。それで突然やる気がなくなってね…。「またバイトでもするか」って。そんなことしていたら「ガラスの彫刻師」の募集があって、印刷会社のガラス事業部というところに就職しました。

独立までは
人生色々ありました


―これまたすごいタイミングですね。ついに組織に入ったんですね。

岩﨑:そうなんだよね。だけどやっぱり体制がいやで2年位でやめました。ところが、その時、営業課長だった人に「俺も辞めるから一緒に会社やろう」って誘われて、彼が社長で自分が専務。二人で会社をはじめたらすごく売れてね。住宅のアートガラスとかだよね。そしたら社長いい加減だもの、結局7年半位で辞めましたね。でも、その時のお客さん2社は引き継がせてもらって、1993年、鎌倉に『ガラス工房デュー』を設立して、2006年に葉山に移転して今があるって感じだよね。

―独立されてすぐに軌道に乗ったんですか?

岩﨑:最初は「のんびり海見てランチして」って思っていたのに、以前のお客さんたちが自分のこと探してくれたんだよね。何も言わないで辞めちゃったから。それで3か月位でバタバタ忙しくなっちゃった。

―やっぱり「どこの会社に」ではなく「誰に」という職人の世界がわかるお話しですね。

デュー(しずく)が
川となり海に注ぐように

―『ガラス工房デュー』の「デュー」にはどういう意味があるんですか?

岩﨑:デューは英語の「しずく」です。雫が川となって、海に注ぐようにという意味です。奥さんと小さく始めた会社ですが「色々な人に出会って、大きな世界が見れたらいいな」っていう気持ちでつけたんですよ。

―小さな雫も、幾つか集まればやがて川となり海へと繋がる…素敵ですね。
岩﨑:ありがとうございます。『TAKARA CAFÉ』も面白い名前だよね。

―はい。『TAKARA CAFÉ』はここで宝物の話をしたら、失くした宝物が見つかったり、新しい宝物に出会えたりする、そんな場所になるといいなと思って付けたんです。
岩﨑:心が温まる、ホッとする名前ですね。

―ありがとうございます。もしよかったら岩﨑さんも宝物の話きかせてください。

リクエスト以上。
それに応えるのが職人


―岩﨑さんの宝物はなんですか。
岩﨑:子どもの頃はね、生まれて初めて出会う人やコトやモノに、いつもワクワクしていました。それを積み重ねてこれたことが宝物です。そして「今もまだ何かをやってみたい」と思っています。

―ずっとワクワクを積み重ねてきて、そしてまだまだ何かをやってみたい…。

岩﨑:そうです。とにかくもっとクオリティをあげていきたいですね。自分はなんでも「日本一」がポリシーなんだけど、そのためにもまだまだ努力は必要ですよね。どんなすごい人でもお客さんに納品するときは、一つ位「自分は納得していない」というのが腹の中にはあると思うんです。いつまでたっても完成形がないのが技の世界だから。

―技の世界。岩﨑さんのガラス彫刻・エッチングはガレやミュシャ―のようなアールヌーボー調から鳥や植物などの日本画風であったり、アメリカンPOPやハワイアンなど幅広くて、もともと絵を描くのが得意だったんですか?デザインや下書きも自分でされるとなると、普通に絵を描く人以上にすごいアーティスト、芸術家ですよね。

岩﨑:いやいや、芸術家ではないね。芸術家はその人のモチーフがあるでしょ。我々は〝紙切りの演芸〟みたくリクエストに応えていくのが仕事なんですよ。そして、その積み重ねがクオリティになっていく。リクエストは千差万別だから、相手のイメージに合わせながらそれ以上のものにしていく。それが職人です。

ーかっこいい!

収集癖と努力の積み重ねが
作品に現れる


―千差万別なリクエストのイメージに応える…以前、収集癖があるって仰ってましたが、それはアイデアの力になるんですか?

岩﨑:そう言われるとそうだね。とにかく自分は物を捨てられない。映像やレコードジャケットや漫画とかね。本やレコードやCDは千単位だし、それに人形が200体。市松人形からビスクドール、綾波レイのようなフィギュアまで、好きなカルチャーや好きなものを広く知りたいし、実際に見たり体験したり、そういうものを持っておくと出てくるよね。あと、やっぱり現場で勉強するのが一番。絵を習ったことはないけど、好きなものを現場で見て、努力することで2年かかるところが3か月で身につく。そういう努力の積み重ねが力になると思います。

―努力の積み重ねだけで、あれだけの作品を彫刻していけるとは…

岩﨑:もちろん今となっては、自分はそういう才能が多少はあったのかなと思うよ。でも、時々「お前は運が良かったね」と言われることがあるんだけど、そのときは「努力したからだ」って言うんです。でないと、努力が無になってしまうから。以前、TVで人間国宝のおじいさんが出ていて、その人に「なぜあなたは人間国宝になれたんですか」って質問をしていたんですよ。そうしたら、「自分は弟子の中で一番不器用でしたから」って答えていて、あれはカルチャーショックだったね。それが心に残って「自分も日本一苦労するんだ!」って思えた。

若い時なら「成功の秘訣は?」って聞かれたら「運」とか「才能」ですって答えて、実際にそう思うんですよ。まだ浅いからね。その殻を破ってくれましたね。そういう番組とか本とか大切だと思いますよ。時々、うちにもガラスの世界に進みたいって若者が来るから話をするんだけどね。

必要なのは失敗談と
修行と体力


―若い方にはいつもどのようなお話をされるんですか?

岩﨑:成功するための方法を聞きたいんだろうけど、そんなのはないんだよ。あったら自分が知りたいくらいなんです。大切なのは失敗談。失敗談を聞けば、失敗を回避することができて時間の無駄にならないでしょ。自分も若い時苦労して、周りに助けてもらったから「こうしたら食べられるんじゃない」とか、アドバイスはいつでもする。でも、クオリティは修行するしかないんだよ。

―いい話!厳しい修行。体力も相当必要だと思います。
岩﨑:そうだよね。ガラスは重たいからね。特に自分はアートガラスのでっかいのが好きで、他が尻込むようなことがしたくて、「どこも断られた」とか言われたら「やってみよう」って燃えちゃうんだよ。

他が尻知り込みする
ステンドグラスの世界


―以前お話しされていましたね。例えば、『クリスタルホテル湘南』のチャペルには17~18世紀の大きなステンドグラスがあったり、『湘南ステンドグラス美術館』も日本最大規模の3連一体のアンティークステンドグラスなどがあったり、それらも岩﨑さんが手がけられたと。

岩﨑:10年位前に横浜のチャペルでW2m×H1mのガラス70枚。10段7連の修復をしたんだけど、取り付けは夜の7時から明け方の3時半しか時間がもらえなくてね。でも1週間で取り付けたからね!ちょっと仮眠してから他の仕事もしてだから、本当命かけたよね。あれは12人で作業したんだけど、30年やってきた仲間だから出来たと思ってる。

―チャペルのステンドグラスはだいたい高い場所にありますよね。厚みもあるし、落としたら一貫の終わり…。
岩﨑:アートガラスは重いものだと200㎏はありますよ。

―一枚がですか?
岩﨑:そう。一枚が、ですね。チャペルのステンドグラスは確かに高い場所にあるよね。15mとかね。でも、どんなに高い位置にあっても下のステンドグラスに影響がないように上からつけていく。それが基本なんですよ。

―下からつけて崩れたら全滅もある…。聞いているだけでなんだかヒヤヒヤします。音楽も好きって聞いていました。何かリラックスできる曲チョイスしてください。

岩﨑:じゃあ、優しい気持ちになれる曲をお願いしようかな。エルトン・ジョンの邦題が『僕の歌は君の歌』(楽曲はYouTubeにリンクされています)。

幸せな人達が集まれば
幸せは大きくなる


―今探してる宝物はなんですか。

岩﨑:それはね、だたひとつだけ「穏やかになれること」かな。もう66歳。そろそろ自分のためだけ、周りのためだけでいいかなと思っています。そうして自分と、自分の周りの人が幸せになって、幸せな人たちが集まれば、幸せは大きくなりますよね。そうなればいいんです。

―岩﨑さんらしいですね。小さなしずくも集まれば世界へ繋がる海へと注ぎ、小さな幸せも集まればより大きな幸せになる。今日はとっても貴重で素敵なお話しを聞かせていただいたお礼にもう一杯いかがでしょうか。
岩﨑:じゃあ遠慮なくいただきます。

―ごゆっくりお過ごしくださいませ。
岩﨑:ありがとうございます。

岩﨑さんの番外編


―岩﨑さんのブログは本当に面白くて、見出したら止まらない。そしてものすごく古くからコツコツと記録されていますよね。

岩﨑:古いのも入れると15年位前から始めたのかな。思ったことを書いたりしているだけなんだけど、将来誰かが見て参考になればという気持ちがありますね。作品って、完成したモノの紹介はよくあるけど、自分は作っている途中も見せるようにしていて、作る途中が大事だよね。

―素人目でも、同じ世界の方やこれから目指す人には多分貴重な参考書になるのではないかなって思いました。そして文章が思白い!本になるといいなと思って読んいでるんです。

岩﨑:そう?アートはできたものは当然キレイだよね。だから「モノ作りをしたい」って思っている若い子はキレイな写真だけ見てあれこれ言うけど、そんなことではプロにはなれない。作業を現場で一から見て、実際に経験を積むことが大事です。


『有限会社ガラス工房デュー/デューグラスワーク』のHPは「こちら」
番組サイト⇒『犬とあなたと珈琲と。』

インタビューと文:白田祐子(しらたゆうこ)

うり店長のInstagramは『こちら』
ル・ブラン湘南のInstagramは『こちら』

白田祐子(しらたゆうこ)

プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。

里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。

関連記事

カテゴリー

  • ラジオカフェ
  • 犬の心理
  • 講演・イベントレポート
  • お悩み相談
  • 犬と暮らす
  • 日々のあれこれ
  • うりパイセンの独り言
  • 湘南しっぽラジオ
//サムネイルを取得 //ここから構造化データの記述