犬とあなたと珈琲と。Vol.44

ミキサー:レディオ湘南 高橋優佳
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』
FM83.1MHz レディオ湘南(毎週金曜 16:00~16:29)放送中
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。
ここで“宝物”の話をすると探し物が見つかるとか?…
オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。
店長はカフェオレ色の17歳。愛犬の“うり”。
美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は裏浅草にあるビストロ『ODETTER(おでって)』のオーナーシェフ内村光尚さん。内村さんは元南極料理人という貴重な経歴の持ち主。2017年の1年間、昭和基地で越冬隊員33名の食事の支度を365日2名で担当しました。料理以外の時間は雪かきや観測隊の補助を行うため、自由時間はあまりなかったそう。極地へ運んだ食材の量は?逃げ出したくなることはなかった?皇帝ペンギンに出会えたか。フランスでの修行を含めフレンチ一筋だった内村ご飯の「人気メニューベスト3」は?などなど、伺いたいことだらけ。寄せ書き入りの観測隊コックコートが宝物の内村さん。沢山の「ありがとう」が詰まったコックコートをお店に飾り「喜んでくれる人がいるなら、どこにでも行く」という想いを胸に、今日もみんなの笑顔が見たくて厨房に立ちます。

―こんにちは、内村さん。今日はご来店いただけると聞いて楽しみにしていました。
こんにちは。祐子さん、お久しぶりです。結構店内はワンチャンのお客さんが多いんですね。あっ、うり店長もいらっしゃいますね。
―内村さんもワンチャンと暮らしていたことがあると仰っていましたね。
子供の頃に“ムック”という犬を飼っていたときがあります。隣の家で2匹産まれて、そのうちの1匹をうちがいただいたんですけど、隣の家の犬は“モック”って言って、うちは“ムック”。ムック可愛いかったですね…。
目次
これまでの出会いが
大切なお客様に

―内村さんは裏浅草になるんでしょうか、浅草5丁目にあるビストロ『ODETTER(おでって)』のオーナーシェフでいらっしゃって、とても人気のお店ですね。
ありがとうございます。2021年の11月15日にオープンさせていただきました。東京に来てからは、国分寺の「ジョルジュマルソー」というシャトーレストランから料理の修行が始まったんですが、そのあとは銀座の「アピシウス」、表参道の「アンフォール」「レストランひらまつ」と高級店を渡り、フランスの「ジャルダン・デ・サンス」っていう当時三ツ星のレストランで働かせていただきました。
帰国後はビストロの走りともいえる浅草の「大桝」で経験させていただきまして、料理に関わって26年。26年の間に出会った沢山の方が今も僕の店にご来店していただいていますので、本当にみなさんに支えられてここまで来ていると思っています。感謝しています。
―それだけ内村さんのお料理や内村さん自身が魅力に溢れているという証だと思います。メニューはお肉の様々な部位を使ったメニューが多い印象です。
そうですね。僕の得意とするのは「シャルキュトリー」って言われまして、フランス料理で言うとリヨンの街で多く作られているお肉を加工したものです。手作業でボイルハムやベーコンを作ったり、あとはパテ・ド・カンパーニュですね、低温で火を入れてお肉を冷やし固めると言うような、そういう一品料理を出させていただいています。
―夕飯前なのでお腹がなりそうです。そういったお料理に合わせたワインも豊富で、内村さんの故郷の岩手のワインや日本酒も楽しめますよね。
そうですね。岩手のこともやっぱり忘れたくないので、岩手のワインそして日本酒も置いてお客さんに楽しんでもらおうと思っています。

南極料理人に!

―お料理、ワイン、日本酒、そして、更に楽しめるのが元「南極料理人」のお話しです。2017年の1年間を南極観測隊、正確には「第58次日本南極地域観測隊」の調理担当として勤務されていました。本当に貴重な体験でしたね。
そうですね。貴重な体験になりました。
2016年の7月に南極地域観測隊に合格したんです。40歳手前ですね。
南極に行く前は、立川にある国立極地研究所で合宿や訓練を受けます。調理担当は2名しかいませんので、その間に越冬する1年間の食料などを調達し船に積み込みます。そういうところまでやってから、2016年11月に空路で西オーストラリアのパースを経由して、フリーマントルまで行き、そこから南極観測船「しらせ」に乗船して昭和基地を目指します。到着するのが12月下旬、クリスマスの時くらいになります。
―フリーマントルからはどのくらいの時間がかかるんですか?
海の観測…海洋観測も兼ねていきますので、だいたい3週間くらいですかね。
―では、この期間中も観測船の中で調理をされるんですね。
いえ、海上自衛隊の調理の方々がいます。船の中では朝昼晩ご飯を出してくれますのでそれを僕らが食べるという。かなり楽しい船の旅になりましたね(笑)。
1人1トンの食材で
1年を過ごす

―2人で朝昼晩と調理するんですね。何名分を調理するんですか。
33人分の朝昼晩を作るんですが、海上自衛隊が船で南極入りした時はかなり人数が増えていますので、100人位の規模のお料理を作る時もありました。
―トータル1年と3-4か月。南極で越冬する「越冬隊」と呼ばれる人達が33人。食材はどの位の量になりますか。
僕らのときは、だいたい35トン位になりましたね。
―そうすると1人1トン位なんですね。全く想像がつきません。最初から全てのメニューを考えて行くわけではないでしょうから、必要なものを予想しながら、そして限りある食材を上手に使う。すごい能力が必要ですね。
そうですね。限られた食材の中で1年ですから。その中でも「季節感を出した料理」という物を考えて提供していくってところですね。

―すごいですね!ドラマや映画にもなるくらい「南極料理人」というのは人気なんですけども、その物語を見ていると、カップ麺の取り合いとかが面白可笑しく描かれています。そういうのって本当にあるんですか。
まぁいい大人なので、みなさん(笑)そういうのはあまりないですけれども、そうならないように全ての材料、そういうものを日本でしっかり数字に現して、まんべんなく平等に十分な量を買って行きますね。
―それを聞いて安心しました(笑)平等に大切ですよね。基地での食事で一番気を付けていたことってどんなことですか。
かなり長丁場になりますので単調にならない、飽きさせないって事が重要になってきます。そして「また明日、どんな美味しいものが出るんだろう」という期待をさせるような料理を常に常にイメージしてやっていました。
和洋中、お魚、お肉、まぁ冷凍ものではありますけどお野菜。そういうものをバランスよく提供することですね。
―毎日の食事がワクワクして、太って帰ってきそうですね(笑)。
多分みなさん若干太っていたと思います(笑)帰る時には。
南極料理人
人気メニューベスト3

―人気のメニューって調理されていて実感としてわかりましたか?『人気料理ベスト3』とかあれば教えてください。
そうですね。やっぱり毎週金曜日のお昼はカレーだったんですね。どうしても極夜の時は時間の感覚などがなくなってきますので、毎週金曜日のお昼にカレーを出すことによって「あー明日は土曜日で休みだ」。そういう決まりごとがあったんです。ですから、一番がカレーですね。
あとは続いてお寿司。屋台を作ってお寿司を握ってあげることもしましたし、フランス料理のフルコースも作ったことがあるので、それはみなさん思い出に残っているみたいですね。
―フレンチのフルコースは内村さんの腕ということですね。
まぁ、一番得分野ですので。隊員の皆さん喜んでいましたね。
極地であっても
そこに調理場があるから!

―そもそも内村さんはどうして南極料理人を目指したんですか。
まっ、かっこいい言い方をすると「そこに調理場があるから」と言っているんですけど。
―かっこよすぎるじゃないですか。それ(笑)
はい。かっこいい言い方をすると(笑)。
でも、南極という場所にも調理場があって、そこで喜んでもらえる人達がいるのであれば、そこで調理をして「1年間喜んで貰おう」。本当にただ純粋にそれだけでした。
―何をきっかけに知ったんですか?南極料理人のお仕事。
僕の先輩が48次隊で行ってまして、現地からアザラシやペンギンとかの写真を送られた記憶がありますね。
―あざらしやペンギンにもつられて行ったってことですね(笑)
そうですね。実際に見てみたいなと思いました。
―調理担当はたった2名の枠です。どうして自分が合格したと思いますか。
うーん、やっぱり今考えると、さっき言ったように「隊員のみなさんを喜ばせてたい」って気持ちが全面的に強かったんじゃないですかね。
―自分の想いを上手にアピールできたということなんですね。
はい、印象は強かったんじゃないですか。

―内村さんのお店の『ODETTER(おでって)』って、ビストロにピッタリの名前だと思います。どういう言う意味なんでしょう。何語ですか。
『ODETTER(おでって)』は岩手の方言なんですね。岩手の事を忘れないって先ほど言いましたけど、やっぱりその気持ちを店名にも乗せたくて。「おでって」は「おいでおいで」という意味なんですよ。
―あーいいですね。方言。温かい響きですよね。
ありがとうございます。ところでこの店は『TAKARA CAFÈ』って言うんですよね…「宝」ってなんか縁起のいい感じがするんですが。
―そうですよね。「宝」。『TAKARA CAFE』は失くした宝物が見つかったり、新しい宝物に出会えたりする。そういう場所になるといいなと思って名付けたんです。
そうなんですか、へー…
―もしよかったら内村さんも宝物の話きかせてください。
宝物は寄せ書き入りの
コックコート

―内村さんの宝物はなんですか。
そうですね。やっぱりこれまで出会った人達です。特に南極越冬隊員のみんなからもらった寄せ書きいりのコックコートがありますが、このコックコートは大切な宝物です。
―コックコート。お店にも飾っていますよね。どんな言葉が寄せ書きされていましたか?
もう、みんなからの「ありがとう」が詰まっていますね。
―1年以上33名の同じメンバーと寝食を共にして、いいことも辛いこともあったと思います。どうでしたか。1年ちょっとどうやって過ごしていましたか。
行ってみたら、結構忙しい日々を1年間過ごしていたので、意外とあまり時間がなかった記憶があります。料理だけを作ればいいってわけではないんですね。料理のお仕事が終わったら、外に出て除雪作業をしたり、他の色んな分野のお手伝いに参加をして、みんなで協力しあいながら仕事をするというのが観測隊なので。
―チームワークが大切。極地で一番辛かったことはなんですか。途中で「やだー!帰りたい」って思うことはなかったんですか。
いや、ありましたね。やっぱり、そうはいっても30人一つ屋根の下で暮らす訳ですから、小さいながらも人間関係っていうのはありますので、2-3回泣きましたね。外にも飛び出したことがあるんですが寒くてすぐに中に入りました。
―涙も凍っちゃいますよね。
そうですね(笑)
ペンギンやアザラシに携わりながら

―私は結構南極好きなんです。私にとっての南極は「タロとジロ」、そして皇帝ペンギンです。動物観測も観測隊のお仕事にありますがどうでしたか?観測隊員以外はペンギンに近づくことが法律で許可されていませんが、皇帝ペンギンは見るこができましたか。
皇帝ペンギンは昭和基地の周りにはそんなにいないんですね。そのかわりアデリーペンギンって小型のペンギンはちょっと離れたところに行くと生息地があっていっぱいいます。実際に見て可愛かったですねー。
58次隊では生物学者の研究者の方も越冬したので、ペンギンあざらしに携わる機会が結構沢山ありましたのでお手伝いさせていただきました。
―えー羨ましい。アデリーペンギンは目の淵が白いのが特徴ですよね。ロッテのクールミントガムなど昔からのペンギンのキャラクターはほとんどアデリーペンギン。それも1910~12年に南極探検を行った白瀬隊がアデリーペンギンの写真や剥製などを持って返ったことで「南極=ペンギン」「ペンギン=アデリーペンギン」になったと聞いています。
ほー、知らなかったです。
―ペンギンの話をすると私の話がとまらなくなりますので、何かここで思い出の曲をおかけしましょうか。
じゃあ、南極で気分を上げるために聞いていた曲を。Pharrell Williamsで『Happy』(楽曲はYouTubeにリンクされています)。
もう一度南極へ!

―今探している宝物はなんですか。
もう一度南極へ行きたいです。2016から2018まで南極観測隊として活動し、南極を経験した料理人として、もう一度チャレンジしたいですね。
―かっこいい。今度はペンギンの写真とか沢山みせてください。今日はお話しを聞かせていただいたお礼にもう一杯いかがでしょうか。
いいんですか!ありがとうございます。遠慮なくいただきます。
―ごゆっくりお過ごしくださいませ。
ありがとうございます。もう少しノンビリさせてください。


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番組サイト⇒『犬とあなたと珈琲と。』
インタビューと文:白田祐子(しらたゆうこ)
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白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。