犬の心理*犬に伝わる注意の仕方と教え方のコツ6つ#2
前回に引き続き、このコラムは犬の困った行動を改善するための方法として「何をするか」より「どのように伝えるか」という点に注目しています。
今回は6つのうちの残り3つを紹介します。1つでもぜひ取り入れてみたいと思ってもらえると嬉しいです。
前回の記事→『犬の心理*犬に伝わる注意の仕方と教え方のコツ6つ#1』
4:行動モデルを示す
犬は”正しい動きや振る舞い方を学びたい”という意欲は生後半年ほどから高まると言われています。
また、犬の群れでは”その場に適切な行動”ができない仲間がいると、群れの統率が難しくなるため”正しい動きを覚えてもらおう”と協力しあいます。
例えば、川の向こう岸に行きたいのに怖がって渡れずにいる仲間がいると、泳ぎの得意な犬が何度も行ったり来たりして“手本を示す”ことも。
人間との暮らしでは、わたし達には当たり前と思っている行動でも、犬は教えてもらわなければ分らないことだらけです。静かに心を込めて、順序だてて動きを教えてあげると、犬はそれを理解し積極的に覚えようとするのです。適切な行動を“具体的に”伝えてみましょう。
ワン!ポイントレッスン
①テーブルにかけた前足を優しく押し払う(言葉は出さない)
②前足が床に着き落ち着いたら「お座り」の指示を出す
③座ったら褒める。
ココに注目!
①テーブルに手をかけた状態で「お座り」と指示しても、その体勢からは座りにくいので座らない。
②前足をかけてから「ダメ」と言っても、テーブルに近づいたことがダメなのか、テーブルの上を見たり・匂いを嗅いだりしていることがダメなのか、ダメポイントがわからない。
③前足が床に戻ったときに「どうすればいいのか」を提示する。ここでは「お座り」。
④座ったら褒める。ダメ出しではなく、できている状態を褒める。 この順序を繰り返す事で「テーブル」=「お座り」が結びつき、お座り行動が強化されていくのです。
5:自己決定感を与える
犬のしつけは、単に罰を与えたり褒めたりして行動変容させるものから、情報がどのように獲得され保存されるかという「認知論」を中心とした方法が主流になってきました。方法としては、心理学でいう道具的条件づけ(instrumental conditioning)といった、20世紀初頭の学習心理学を軸になされます。
道具的条件付づけの特徴は『自らの行動で起こした結果から得られた快は満足度が高まるため維持しやすく、他の課題へのモチベーションも高まる』点にあります(Skinner,B.F;1904-1990)。
例えば、ケージに入るのを教えたいときは、ケージの入り口までは体に手を添えて誘導などしても、犬がケージに向かって進んだ瞬間に手を離し、あたかも“最初から自分でケージに入る行動を選択した”と錯覚さえることが大事なのです。
そしてケージに入ったら褒める・撫でる・おやつをあげるなどすると、“ケージに入ったら良いことがあった”と、より記憶に定着するので、その後は自らゲージに入るようになるでしょう。
他の場面でも最後まで無理に犬を引いたり押したりせず*少し力を加えて導き、思う方向に進んだときに力を緩める*ことを心掛けると犬の反発心やストレスが減り、愛犬と自分の目指す方向が同じになっていくはずです。
6:繰り返し教える
最初のうちは一度正しい行動ができても、すぐにまた違う行動を繰り返すかもしれません。
子犬は母犬や群れの犬に注意をされた行動を“わざと繰り返して”もう一度注意をされるかを試します。その行動は「いつでもダメなのか」を確認しているのです。あなたの愛犬もあなたを何度か試すかもしれません。
ですから「昨日はできたのに今日はできない」とがっかりせず、犬は確認のために「試している」ということを思い出して、一貫性を保つようにしてみましょう。
ワン!ポイントアドバイス
犬の学習の3段階
経験:見る・近づく・嗅ぐ・触れる・体を使うなど、感覚器官や運動器官を用いてなされる経験が「なぜ?」「なに?」という問いかけになる。
理解:経験から得た問いかけを比較分析し「なるほど!」と理解にいたる。
判断:理解したことを「それは正しいのか?」と確認することで「やっぱり!」と学ぶ。
学習は定着する手前で終わらないよう*繰り返しフィードバックして正しい行動で終わらせること*が不可欠なのです。
おわりに
愛犬に新たな行動や習慣を教えることが、その犬が持つ性格を変えてしまうのではと危惧している飼い主さんもいるかもしれません。でも、困った行動を正すと言うことは、犬が心や行動を上手にコントロールするために必要な情報を与え、方向性を示すことだと思うのです。
状況を正しく見極め“その注意や指示が本当に必要なのか”自分自身に問いかけてみることも必要。案外、新しい発見もあるかもしれません。
犬の困った行動や心配な行動を正すときは、ハッチと気付かせ、いつもと違う声や表情で具体的な行動を示しながら繰り返し教え考えさせることが大切です。
注意をする時だけ犬に注目すると、犬は注目されるために困った行動を取り続ける可能性が高まります。リラックス状態や正しい行動をしている時に“褒める”ということも忘れてはいけませんよね。
わたし達が真剣に犬に向き合うと犬もそれを感じ取りまっすぐに向き合います。でもあまり真剣になり過ぎて、深刻になってはいけません。
「こうやったら楽しいかもね」「面白そうだからやってみよう」という気持ちを大切にしてほしいと思います。
間違ったタイミングや方法で注意をすると、犬の心も傷つきます。困った行動でお悩みの時は、深刻な状態になる前に「専門家のサポートを受けることも一つの方法」であることを忘れずにいてくださいね。
◎『With a Dog』は犬の認知行動療法と飼い主のコーチングという“心理学を軸”としたドッグトレーニングを行う立場から、ヒトと犬の心と行動の関係についてお伝えしています。
文:白田祐子(しらたゆうこ)
この記事は初出2017年9月8日『犬の心を育む6~犬の心に伝わる注意の仕方、教え方のコツ6つ』(「犬のココカラ」掲載)を加筆・修正しました。
Instagram:@doggy_uri
@ル・ブラン湘南
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:公益社団法人日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ、ル・ブラン湘南代表。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した犬のしつけ相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。2014年より神奈川県動物愛護推進員、湘南ビジョン大学講師、2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演中。