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事件は現場で起きている#4 最終回 めぐる季節

あの日の事件簿

帰宅して、洗濯機を回しながら検索をする。

何か事件は起きていないか。過去の事件かもしれないから幅広く探す。けれど、ヒットするものはなにもない。公表されていない事件や公表されない類の事件なんていくらでもあるのだから、当たり前だ。

日々の散歩コースはうりが決めている。彼女にはその日その日に行きたい場所があり、見たいものや嗅ぎたい匂いがあるらしい。私たちは普段の生活の中で意識的であれ無意識であれ、なんらかの選択を日に数千回としていると考えられている。でも、犬の日常の選択は人間の何分の一だろう。何百分の一だろうか。

だから、散歩の時くらい選択肢を増やし自由に選ばせてあげたい。右に曲がるか、左に曲がるか。どの公園で休憩をするのか。ただ、それだけの事だ。私が行きたかったカフェに「絶対にそっちには行かない」と言われれば、諦めるのが手っ取り早い。うりが大嫌いな病院には、どんなに抵抗されようと、行くと決めたら絶対にこちらの意見は譲れないのだから。それ以外は好きにさせてあげたい。

「犬の言いなりになるのはいけません。」散歩のコースも時間も人間が決めましょう。「人間のベッドで犬と寝てはいけません」「ソファーに乗せてはいけません」。どれも守らないから、家族よりもが自分の方が上だと思って吠えたり噛んだりするのです。そんなことを未だに言っている専門家は信用できない。知識の更新をするべきだと思う。

さよならベンチ

偶然なのか必然なのかはわからないけれど、わりにお気に入りのはずだった事件現場の公園コースは、ずいぶん長い時間、選ばれることはなく、わたしが一人で通りかかることもなかった。

春一番が吹き、コートを脱ぐ季節になった頃、久しぶりに現場コースは選ばれた。ベンチのある公園へと向かう。住宅街はいつものように静かで、赤い首輪をつけた黒猫が黄色い瞳でこちらを見ている。サーモンピンクの壁の家の脇にピンクの花が咲いている。名前は知らない。わたしはお花の名前をあまり知らないから「フレアーピンク」と呼ぶことにする。そういえば、年上の友人とわたしがお気に入りの小さな青い花は「カナディアン・アイスブルー」と名付けて呼んでいるけど、友人命名のその花は、それ以上にピッタリの名前はないと思っている。

公園の横に来る。何も変わりはない。でも、あのベンチだけが新しくなっていた。以前、背もたれはなかったのに今はある。ベンチには杖を持った老夫婦が腰を掛けている。このベンチに誰かが座っているところを初めて目にする。

見るともなしにベンチを見ていると、老夫婦がこちらに気付き会釈をする。わたしは「こんにちは」と挨拶をする。犬を連れているときは挨拶をするように心がけている。ご婦人が笑顔で「いい犬ですね」と言う。いい犬。よく言われる言葉だけれど、どういう意味なのだろう。言葉の意味を考えすぎるのは悪い癖だ。考えるのはすぐにやめてお礼を言う。少し高い大きな声で。

結局、謎は謎のまま。鷲のような紋章。マジシャンのような手さばき。顔のわからない闇男。黒光りした高級車とブラックメン。

しかし、「ちょっといいですか」と、警察手帳を出されたとき、少なくとも、とっさに逃げるような人間にはなってはいなくて良かったと心から思う。そんなこと当たり前だって?確かにね。でも本当にそうかな。人生なんて何が起こるかわからない。

一頭のグレーの犬と出会ったのは、もう30年近く前。それから、ずっと犬と暮らすわたしの人生。それだけでも十分不思議で、これからだって、何が起こるかわからないから面白い。

おわり

文・白田祐子

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