犬とあなたと珈琲と。Vol.8 大岡 紱子
FM83.1Mhz レディオ湘南(毎週金曜 16:00~16:29)放送中。宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。ここで“宝物”の話をすると探し物が見つかるとか?…オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の愛犬“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は地図編集社“株式会社ウィリング”の大岡紱子(ゆうこ)さん。大岡さんの宝物は「人との縁と旅する時間」。“旅の達人”大岡さんですが、元々は出不精で近所にも出掛けないタイプだったそう。地図編集者の仕事や最近の旅事情、どのようなきっかけで“旅を愛する”ようになったのかを伺いました。そして“地図を作る女”に“地図を読めない女”がもらったアドバイスとは。
目次
日常はいろんな
地図にあふれてる!
――大岡さんと一緒に出掛けると、私はついて歩くだけで「道に迷うことも、乗り換えに戸惑うこと」もない。私にとっての“ツアコン”みたいな存在ですが、それもそのはず地図編集者で地図編集会社の社長さんでもいらっしゃるんですよね。
大岡紱子さん(以下 大岡):はい。
――はじめは「地図の編集者」って聞いても、どんな仕事なのかあまりピンと来ませんでした。
大岡:確かにイメージしづらい職業だと思います。でも、地図って昔から私たちの生活の中に近いツールで、普段、駅の出口案内図とかデパートのフロアマップとか何気に使っていますよね。例えば、歩いている時と車に乗っている時だと移動するスピードも目に留まるものも違います。歩いていたら細い路地も小さな店も目印になりますが、ドライブ中は車では入れない道とか小さな店はかえって迷う原因になってしまうこともあるんです。同じ場所の地図でもその使い方によって載せる情報を変えてあげると、より使いやすモノになります。
目的に合わせて縮尺や範囲を決め、載せる情報を取捨選択して“見やすく分かりやすい地図”をつくる。それが私たち地図編集者の仕事です。
――確かにガイドマップだけを見ても「このお店は何ページの地図のA-5」のように、細かく書かれているものもあれば、シンプルでオシャレなデザインのものなど多岐にわたっていますよね。
大岡:そうですね。地図は多種多様なので本によってはデザインに合わせるために自由に作れないこともあります。でも、どれだけ”わかりやすい地図”を作れるかということをいつも大切にしています。究極は雑誌でよく見かける、お店の紹介記事とセットで載っている2~3cm角の小さな地図です。小さいスペースなので「何を描いて何を書かないか」で地図屋のセンスが問われますし、店ごとに違う地図を作るので「いつも新しいものに挑戦する」感じです。
ある日突然、
わたしが社長
――どのようなきっかけでこの仕事を知ったんですか。
大岡:最初は求人雑誌の広告がきっかけでした。その頃、なにか”カタチに残る仕事”がしたくて出版編集に関わるバイトを探していたんです。「地図編集ってどんな仕事なんだろう?」って興味をもって応募をしたら採用されました。
――私は本が大好きなので、出版に関わる仕事はすごく魅力的で羨ましく感じます。そこからどういう経緯で独立することに?
大岡:バイトを始めて10ヶ月で社員になりました。順調に経験を積んでそろそろ10年という時、社長が癌だとわったんです。すぐに手術をしましたが末期癌でたった2か月で亡くなってしまいました。その間に社長が病床で「会社は解散するけれど、誰かクライアントを引き継いで新会社を興す気があるんだったら全面協力する」って言ってくれたんです。でも誰も手を挙げなかったので、「じゃあ、私が…」って、勢いで手を挙げちゃいました。
――社長さんも喜ばれたことでしょうね。大岡さんなら安心だって。
大岡:そうだといいですね…。
――でも、「じゃあやろう」ですんなりと社長・経営者になれるものではないと思います。
大岡:確かにそれまで「社長になろう!」なんて思ったことはなかったのですごく悩みました。私の背中を押してくれたのは、前の社長と一緒に「頑張る」と言ってくれた仲間、そして新会社として仕事を引き継ぐことを認めてくれたクライアントがいたからです。だから思い切って最初の一歩を踏み出せました。
――おススメのビスケット『横濱ロマンスケッチ』で思い出しました。横浜の地図も作っていましたね。
大岡:横浜の馬車道周辺って交差点ごとに町名が変わると言えるほど、町がすごく細かく分かれているんです。しかも、あの辺りは他にも地図に入れたい情報も多いので編集者としてはいつも悩まされる場所なんですが、とっても魅力的な街だと思っています。
宝物は、
人との縁と旅する時間
大岡:ところで、なぜお店の名前『TAKARA CAFÉ』にしたんですか?
――ここで宝物の話をしたら、失くした宝物が見つかったり、新しい宝物に出会えたりする。そんな場所になるといいなと思ってつけたんです。ぜひ、宝物の話聞かせてください。大岡さんの宝物はなんですか。
大岡:人との縁と旅する時間かな。どちらも今の自分を語る上で重要なファクターです。
――人と縁と旅…そこはセットなんですね。
大岡:そうですね。もともと人見知りする方なので本来自分から話しかけるのは得意ではないですが“旅先”だとなぜか平気なんです。人との出会いからきれいな景色や美味しい店に出会い、その体験がまた別の出会いへと繋がっていく。そうした旅先での経験がいろいろな刺激になって、今の自分の生活を彩ってくれていると思います。
――そもそも旅が好きだったんですか。
大岡:30歳までは出不精だったんですよ。だから旅どころか近所へ出かけるもの面倒くさいと思っていました。
――どういうきっかけで旅が好きになったのでしょう。
大岡:やっぱり地図屋になって、たくさんのガイドブックを目にするようになったからだと思います。
昭文社出版の『まっぷる』というガイドブック知っていますか?うちの会社は『まっぷるシリーズ』に多く関わっています。地図を編集しながらその場所を知るにつれ、「行ってみたいなあ」という気分になり、実際行ってみたら色んな発見があって、「旅っておもしろいじゃん!」って気付かされました。
――仕事で人生が変わったと言ってもいいですね…。
大岡:そうですね。
ひとり旅初心者は
一度行った場所が安心
――最近旅したところで「ここは良かった」という場所は?
大岡:つい最近ですが、ゴールデンウイークに行った山形の蔵王温泉は「今ちょうど桜がきれいだよ」っていう頃だったのに、夜中に季節外れの雪が降ってかなり積もったんです。でも、翌日にはキレイに晴れて白銀の世界に満開の桜と青空がすごくきれいでした。他にも露店風呂に鹿が現れたり、樹氷から舞った雪に太陽が当たって一瞬虹を見られたり“ラッキー”が続いた旅でした。
――大岡さんは一人旅派ですが、「一人旅をしたい」と思っていても、勇気がないという人はいると思います。大岡流のアドバイスはありますか。
大岡:まずは、誰かと行った場所を選ぶのがいいと思います。その時は諦めたけれど、行きたかった場所とかレストランとか、1つや2つはあると思います。一度は行っているのだから“見知らぬ場所”という訳でもないですよね。怖がらないでまずは1泊してみたら案外ハマっちゃうかもしれませんよ。
――プライベート情報を盛り込んだ旅日記をいつも楽しみにしています。そのような情報をたっぷり入れた仕事もしていますね。
大岡:そうですね。松江と出雲の観光地図を作ったときは、地図だけではなく全体のレイアウトやデザイン、観光や食の記事まで丸ごと自由に作らせてもらいました。その後、結局自分でも行ってみたくなって、友達を誘って出雲大社へ参拝旅をしてきました。(※『番外編』にこちらの旅情報を掲載中)
――他にも「これは面白かった!」「イケてる!」と思った仕事は?
大岡:講談社の『恋する平安京』という本の中で、現在の京都と重ね合わせた平安京の地図を描きましたが、何度も行っている京都の街並みを別の角度で楽しむことができました。実際、この前行った京都ではいつもと違う視点で見て回ることができてすごく楽しかったです。
招かれる側の
心遣いも大切に
――私はうりがいるので旅行は「車で行けて中型犬でも泊まれるホテル」という括りがあります。20年前に比べると各段に選択肢も増えて「ワンコと一緒に出かけやすい時代」になったと感じていますが、一方でマナーについては未だ発展途上の印象もあります。宿泊のマナーについてどう考えますか。
大岡:ホテルでの宿泊は“親戚の家に泊りに行っている感覚“が一番近い気がします。寛げる反面少し気を遣いますよね。互いに気持ち良く招いたり招かれたりする心遣いはどこでも必要です。ホテルに泊まった時はホテル側だけじゃなく“客側”にもそういう心遣いをしていただきたいと思っています。
――確かに家の中でマーキングをしちゃったら「大変だ!」って思うのに、「よそならいいや」とか、レストランで吠えても「もうどうせ来ないからいいや」など、内と外に分けた考え方をすると「ここではいいや」みたいなことになるのかもしれませんね…。
道に迷う人に
アドバイスを!
――さて、私がとんでもなく「道に迷う人間」なのは、説明する必要はないと思います。そんな“迷える子羊”の私に何かアドバイスをください!
大岡:そうですね。白田さんの方向音痴ぶりは本当に尋常じゃないので超強敵ですけど(笑)『Googleマップアプリ』のGPS機能は使えると思います。まず、行先を検索して見つけたら「経路」を表示させます。今、自分がいる場所が“青い丸”で表示されているので、経路通りに進めば、目的地に到着しますよね。
でも、今いる場所からどっちへ進めばいいのかわからないから、多分迷うんだと思うんです。どっちに進むか迷ったら、とりあえずどっちかへ進みます。仮に、地図の右へ行きたいのに青い丸が左へ進んだら、違う方向へ進んでいるということ。そうしたらすぐに折り返して逆に進めばいいんです。
“青い丸”が経路を辿っているかを時々確認しながら歩けば、少なくても「行きたい場所からどんどん離れてしまう」ってことはなくなります。思い込みで地図を見ないで動くとドツボにハマるので気を付けてくださいね。
――シンプルに「GPSの自分の動きだけを見ていろ」ということですね。
大岡:そうです。シンプルに。
――どうしても地図上に「目印」となる建物を見つけて、それを「目視」で確認したくなるんです。そして近くまで行ったら「あー、これ違う建物だった」って感じですね。
大岡:建物を目視で確認するまでの、その部分は地図を見ないと。
――そうです…。
大岡:地図は使うものですから見てください!
コロナ。この時代の
旅のスタイル
――コロナ禍は規制解除の時期であっても、気を遣うことが多いと思います。大岡さんが気を付けていることや注意していることがあればアドバイスしていただけますか。
大岡:今の時代に旅することで気を付けているのは〝人混みを避ける〟ことと〝時間を選ぶ〟こと。行きたいところって、絶対にみんな一緒なんですよね。だから「きっと人が集まるだろうな」って思う所に関しては早朝に出掛けるようにしています。この前の京都でもすごく有名なお寺に行きましたが、早朝に行って、混むであろうお昼時間にはその場を離れていました。ある程度“思い切り”みたいなものが必要だと思います。
みんなやりたいことは一緒なので“人がやらないこと”に絞って旅を企画する。そして、みんなも行きたくなるような所に行くのなら“時間を選ぶ”。そういう事に注意をすると、ニュースに出ちゃうような混雑した場所に「飛び込まなくてはいけない」ということはなくなるように思います。(※『番外編』にいまどきの旅の仕方「京都編」を掲載中)
――出掛ける前や帰ってきた後にPCR検査を受ける。そういう小まめなこともしていますね。
大岡:そうですね。私の場合は東京に住んでいるので、PCR検査を安くできるところが結構あるんです。旅をする前にPCR検査を受けて陰性だと分かってからする。旅から帰ってきて、しばらくしたら、またPCR検査を受ける。そうして「かかっていない」「持ってきていない」ということを確認する。そうしないと普段の自分の生活に響いてくるので、それは気を付けてやっていることですね。
――さすが、慎重には慎重を重ねている。さて、ここで一息、何かお好きな曲をおかけしましょうか。
大岡:はい。じゃあこの曲をお願いします。Pink Sweat$ の『Nothing Feels Better』(楽曲はYouTubeへリンクされています)。
残りの人生も
“宝探し”の旅
――今探している宝物はありますか。
大岡:「まだ早いでしょ」って言われそうですが、残りの人生を築いていこうと思える場所です。通勤していた時は東京で暮らすのが当たり前でしたが、withコロナの時代になり、完全在宅勤務で仕事ができるようになりました。場所に縛られない生き方ができるのだし“ここで暮らしたい”って心から思える場所を見つけたいと思っています。今の宝物である“旅する時間”の中で、これから見つけたい宝物に出会えたらいいですね。
――まだまだ時間はありますね。また土産話しを聞かせてください。お話しを聞かせていただいたお礼にもう1杯いかがでしょうか。
大岡:はい。ゆっくりしていきますね。
特別番外編
『旅ガイド』
会話の中に出てきた「出雲大社への参拝旅」。そしてwithコロナ時代に必要な「場所を選び」「時間を選んだ」京都旅を大岡さんの解説と写真付きでご案内します。
自分で作った地図を片手に松江旅
1泊目は”美肌や恋にまつわる神社や名所など、街歩きが楽しい温泉街”玉造温泉。
川沿いは雰囲気ある温泉旅館が立ち並び、特徴的なデザインやライトアップが美しい橋が多く楽しいです。神話にまつわるオブジェも多数点在。
縁結びの名所である玉作湯神社では、触れて祈ると願いが叶うと云われる叶い石に願をかけたり、清巌寺のおしろい地蔵に美肌や治癒を願っておしろいを塗ったり、ちょっと女子モード…。
翌朝は早めに宿を出て出雲大社へ。
境内には59羽のウサギの石像があって、それぞれ表情もポーズも違うので、散策しながらお気に入りのウサギを見つけてみてください。1匹で写っているのが私のお気に入り。
出雲と言えばやっぱり「出雲そば」。出雲そばには釜揚げそば(温)と割子そば(冷)があって、どちらも食べ方が独特。そば湯に入った状態で提供される釜揚げそばは、添えられたつゆや薬味でお好みの味に。
3段重ねが基本の割子そばは、一段目につゆと薬味を入れて食べたら、残ったつゆを二段目に入れ、足りなかったらつゆを足して食べる。三段目も同じようにして食べ終わったら、残ったつゆにそば湯を足して飲み干す。家で同じことをしたら、親に怒られそうですが正しい食べ方です。
2泊目は午後早めに出雲から移動して松江しんじ湖温泉。
松江市街地から徒歩圏の温泉地なので、松江散策にも便利で、宍道湖を眺めながら温泉に入ることができる宿もあります。
松江城の周囲3.7kmを50分かけて巡る遊覧船は、見どころたっぷりでおススメです。乗船場が3ヶ所あり一日乗り降り自由なので、観光の移動手段としても便利。屋根付きの船は雨の日でも楽しめ、低い橋の下を通る時は屋根が下がってギリギリのスリルを味わえます。
松江は国宝の松江城や武家屋敷など歴史を色濃く感じる一方、石畳の商店街がある京町周辺は土産店や縁結びスポットが集まり新しさも感じる街です。歴史ある街並みの塩見縄手のそばにある「明々庵」は不昧公ゆかりの茶室ですが、そこから眺める松江城もなかなかです。
もっとじっくり楽しみたいと感じる街でした。
今度は1ヶ所に絞って再訪したいとひそかに構想中!
大岡流いまどき旅
【京都編】
場所を選ぶ1
方除の大社「城南宮」。平安京遷都の際に創建されてから1200年の歴史がある名社。最寄り駅からの距離や周辺に大きな見どころがないこともあり、5月3日(祝)午後1時過ぎでもこのとおり。拝観料はかかりますが、四季折々の花が楽しめる「神苑」は見どころたっぷりでおススメです。
写真は城南鳥居、神苑内と拝殿。
場所を選ぶ2
「嵐山公園亀山地区頂上展望台」から保津川を望む絶景。時間が合えば嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車も見えます。川のほとりまで下り、保津川下りの船を間近に眺めるのもいい。人でごった返す渡月橋を渡らなかったからこそ嵐山の自然の景色をのんびり楽しめました。
時間を選ぶ
嵐電の嵐山駅にある世界遺産「天龍寺」。曹源池を配した回遊式庭園のこの眺めは有名。混雑必須の場所は早朝の開門時間を狙うのがおススメ。午前9時過ぎなら方丈の軒先に座り贅沢に鑑賞できます。
天龍寺北門を出て目の前の「竹林の小径」を抜けた先にある「大河内山荘庭園」。人の少ない時間に抹茶と落雁をいただき、のんびりと寛ぎました。
このような旅情報も読める“ウィリング”のFacebookは「こちら」
番組サイト⇒『犬とあなたと珈琲と。』
インタビューと文:白田祐子(しらたゆうこ)
Instagram:@doggy_uri
@ル・ブラン湘南
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。2014年より神奈川県動物愛護推進員、湘南ビジョン大学講師。2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演中。