犬とあなたと珈琲と。Vol.72 市原淑行
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」
オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。
店長はカフェオレ色の17歳。愛犬の“うり”。
美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は和装履物専門店『有限会社市原商店』の代表取締役 市原淑行さん。浅草で創業70年、老舗の4代目として2年前に就任しました。―履物業界は斜陽産業です―生き残りをかけ、和カフェの併設や和室レンタルなど、新事業を次々と展開。さらに、地場産業を盛り上げるために「浅草コスプレイベント」を開催。なぜ「コスプレ」なのか。現在、浅草が抱える観光課題の解決へ向けた第一歩と聞き、膝を打つ。パリを越え「世界一の観光地」を目指す浅草。浅草寺周辺だけではなく、隅田川から問屋街花川戸へと足を延ばしてみたくなりました。
――こんにちは、市原さん、お待ちしておりました。
市原 こんにちは。
――あけましておめでとうございます。
市原 あけましておめでとうございます。それにはじめましてでしたね。今年もよろしくお願いいたします。
――そうでした。リアルでお会いするのは「はじめまして」でした。よろしくお願いいたします。
市原 こちらこそ…よろしくお願いいたします。
――店内には「うり店長」の他にもわんちゃんがいますが、ワンコは大丈夫ですか?
市原 もう大好きです。わんちゃん大好きです。最近は柴犬カフェなんかがだいぶ増えているので、すごく気になっています。
目次
浅草を「日本一」「世界一」の
観光地へ!
――市原さん。市原淑行さんは浅草で創業70年‥と、ちょっとですよね。高級草履の販売などをされている「有限会社市原商店」の4代目でいらっしゃいます。浅草のお正月はどうでしたか。私は「ゆく年くる年」のイメージ、「THE日本のお正月」を想像しています。
市原 みなさんテレビでもおわかりいただけるように、外国人の方がだいぶ戻ってきていますので、賑わいも戻ってきた感じですね。今、浅草は「日本一」「世界一」を目指して取り組んできているところですので、いろいろな方に来ていただけて賑わいに関してはありがたいです。
――浅草は言わずと知れた、国際的な観光拠点でありますが、さらに「日本一」「世界一」を目指している…
市原 行政の方からは、そのようなお話をちらほら聞きます。ちなみに「日本一の観光地」って言ったら、どこをイメージしますか?
――私は「京都」でしょうか。
市原 そうですよね。ただ、京都って面積が広いですから、実は面積あたりでみると来場者数は浅草の方が上回っているんです。なので、浅草、そして上野も含まれますけど、世界一の観光地「パリ」。こういったところも越えていきたいなという政策を浅草、もしくは台東区ではやっています。
問屋街で
4代目を継ぐ
――市原商店さんは浅草のどの辺りに位置しているんですか。そのワイワイした賑わいからは……
市原 ちょっと外れておりまして、浅草寺がやはりメインになるんですけど、浅草寺と隅田川、このちょうど間くらいの花川戸(はなかわど)という住所です。主に靴や皮製品など、草履とか履物の卸の会社が多い、問屋街の地域になります。
――浅草は靴屋さん、履物屋さんが多い印象です。それが不思議で以前、調べたことがあるんですけど、理由の一つには、花川戸の北側、猿若町(さるわかちょう)には、明治の初期まで「中村座」「市村座」「森田座」の「猿若三座」と呼ばれる幕府公認の芝居小屋があって、とても人気だったそうですね。
それで役者さんや芝居関係者の方たちも多く住んでいたので、鼻緒職人が集まるようになって、下駄や草履などの卸店が開けていき、日清戦争後の好景気をきっかけに問屋街が形成された。
まさに花川戸はその中心。隆盛を極めていったと知りました。
――市原さんは2年前に4代目を継がれて、今は変革のときと仰っていましたよね。どうですか。
市原 特に履物業界は斜陽産業と言われておりまして、先代の3代目からは仕事自体を閉めようかという話しもでていましたので、今、やっとスタートを切ったというところです。
私は大学を卒業してから、流通会社の大手企業で売り場作りや接客業を勉強させていただき、そのあとはシステムの会社の営業、今は生命保険の保険総代理店として二刀流でやっています。これまでの色々な経験はすごく貴重で私にとってはすごく宝物になっております。
――以前、家業にはあまり関わってこなかったとお聞ききしました。4代目を継ぐのはやはり大変でしたか。
市原 そうですね。なかなか一筋縄にはいかないというか、波乱万丈でございました。でも、最初に色々な事業計画や「こういう風にしていきたい」というのがあったので、なんとかうまく継ぐことができました。
和室レンタルスペースが
人気の撮影場所に
――今はなんとYouTube動画の撮影場所として人気だそうですね。
市原 そうなんです。弊社の2階にある「和室スペース」を、レンタルスペースとして貸し出したら、意外とですね、ユーチューバーや最近はTik Tokなどの動画撮影に使っていただいております。なかなか畳の上で動画撮影できるというスペースがないようですね。
一階は『和カフェ』で、スイーツを提供しているカフェスペースもありますので、レンタルスペースを借りた方も休憩できるし、受付にも常に人がいたりなど、安心感があるんだと思います。交流もできる場となっていて、みなさんにご利用いただいております。
――「レンタルスペース」も「和カフェ」も、4代目が新たにはじめた事業なんですよね。他にも着物のレンタルもされていると聞きました。
市原 はい。事前予約が必要なんですけど、着物を着て、撮影もできて、さらに手荷物を預けるサービスもしておりますので、そのままお出掛けすることもできます。浅草寺が近くですので、そう言った楽しみ方もできるようになりました。
――人力車があれば、さらにさらに絵になりますね。
市原 実はですね、その人力車もあります。弊社がタクシーと同じように呼ぶこともできます。
――さすが、浅草の雰囲気全開ですね。
市原 はい。「和」というテーマですすめてきたので、これからは和の「情報発信基地」という位置づけになっていければいいと思っています。多くの方に「和の心」と「おもてなし」を広めていくことが、いま一番の目標となっております。
市原 浅草も「人形焼き」や舟和の「芋ようかん」、あとは「雷おこし」など、有名なお菓子もあります。お菓子で地域がわかる。そういうお菓子があるといいですよね。
――いいですよね。私は「言問い団子」が一番好きです。黄色い球が一番好きです。
市原 浅草の「松屋」でお買い上げできますものね。
――はい。浅草に行くといつも「松屋」さんで買っています(笑)
音楽:Charlie Wilson『All Of My Love ft. Smokey Robinson』(楽曲はYouTubeにリンクしています)
――そう、先ほど「宝物」というワードがでてきましたね。
市原 そうでしたっけ。このお店が「タカラカフェ」だから、無意識だったのかもしれません。「タカラカフェ」は宝探し的な感じですか?
――そんな感じです(笑)ここで宝物の話をすると、失くした宝物が見つかったり、新しい宝物に出会えたりする。そんな場所になるといいなと思って付けた名前なんです。
市原 宝物なんですね…。宝物か…
――もしよかったら、市原さんも宝物の話聞かせてください。
補助金で事業再構築。
稼ぐことが恩替えし
――市原さんの宝物はなんですか。
市原 あまり考えたことがないし、ピンと来ないんですけど…。今、宝物かなと思うのは「時間」ですかね…
――時間…24時間じゃ足りない?
市原 もっと長い目で見た時間ですね。お店の再建や事業計画は計画通りに進んでいるつもりでいるんですけど、なかなか結果を出すのに時間がかかってしまっています。これからは、ちゃんと結果を出して「社会貢献もしたい」と思っていて。やっとですね、水面下からちょっと水面に出てきたというところです。
――社会貢献ですか…
市原 そうですね。私は仕事や商売で稼ぐことは「正義」だと思っているんですね。特に、いまやっている「和カフェ」は事業再構築の補助金などを利用させてもらったり、その他、いろいろな補助金を使わせていただいているんです。
それらの原資って、みなさんの税金なので「しっかり稼いで、しっかりと税金を払って還す」というのが恩返しだと考えています。
――面白いですね。稼ぐことが社会貢献にもなる。当たり前のようでいて、当たり前じゃない言葉ですよね。
市原 そうですよね。やっぱり稼いでも、ちゃんと消費しないとダメかなと思っています。今は自分の仕事だけではなく「givers gain」って「与える者は与えられる」。そういった行動をするように心がけています。
――お互い様の精神は浅草生まれ、浅草育ちの江戸っ子気質にも通じる印象があります。
アイデアだけではなく
実行力が必要
――商売は精神論だけでは立ちいかない部分もありますよね。先ほど、浅草の観光についてお話ししたとき、「賑わいに関しては」と条件付きで仰っていたのが気になりました。
市原 そうなんですね。浅草も浅草寺周辺は観光客が食べ歩きされる方が増えたことで、客単価は実は落ちる一方なんです。なので、もっと人の流れを作って、滞在時間も増やしていかなくちゃいけない。それが区の課題でもあります。浅草の課題ですね。もっと地場産業を盛り上げていくというのが、一番大事なところだと思っています。
――浅草というブランドがあれば、色々なことが実現できそうな気がするんですが、それは素人考えなんでしょうか…。どうなんでしょう…。
市原 実際、浅草って言ったら「それだったら何やってもできるじゃない」「こんなことしたらどうなの?」「これやったら絶対ヒットするよ」とか、色々なアイデアをすごくいただくんですね。
でも、言うだけ言って、実行する人は誰もいらっしゃらないと。「そんなに良かったら、自分でやればいいんじゃない」って、毎回、思うんですけどね。
――確かに「実行力」ですよね。一番大切なのは。今、ふと思ったんですけど、市原さんの「宝物」って「実行力」じゃないですか。
市原 そうですかね。そう言っていただけるとすごく嬉しいです。実際、実行力はあるかもしれないですけど、細かいことを考えずに動いてしまうので、時々やり過ぎてしまいまして…地域のルールを破って怒られたりもしています(笑)
コスプレといえば浅草。
を目指して
――実行力の市原さん。コスプレイベントも開催されたんですよね。お店でもコスプレ衣装の貸出をしていらして『鬼滅の刃』ブームは和装だから、ピッタリだったんじゃないですか。
市原 そうですね。当時はコロナで本当に街に人がいなかったんですが、3回程やるなかで、最終的には600人から700人位の方に来場いただいて、チケットも30秒位で完売してしまったんです。
なんというか…コスプレ好きな人っていうのは、そこに来ると仲間意識が出たり、新しい文化を求めてきたりしているので、街歩きが一つのネタになったと思うんです。そうすると街も潤います。
最初は地域の方たちからのご賛同やご協力をいただくのは非常に大変でしたが、3回程やっていくにつれて、なんとなく皆さんに知っていただけるようになりました。これからは「三社祭」「隅田川花火大会」「浅草サンバカーニバル」。この三大祭りの一つに「コスプレイベント」が加わって、「四大祭り」みたいになれば、非常にいいなと思っています。
――それはすごい。定着しそうですね。「コスプレと言えば浅草」みたいな。
市原 そうなると本当にいいですね。できれば、来場者の方々はヨーロッパの方々をターゲットにしたいと思っております。
――さっき、浅草はパリを超えるという言葉もありましたので、ライバルはパリ(笑)
市原 はい、そうです。特に、近くの秋葉原はアニメのイメージが強いですけど、実はあそこは千代田区なので、行政の規制でコスプレでは歩けないんですね。なので、コスプレのイメージを秋葉原で定着させる前に浅草にもってきちゃえ!みたいな。
――面白い!ゲーム・アニメ・漫画などのコンテンツ市場は、今や日本の一大産業だって耳にしますから、市原さんが使命としている「日本の文化」「和文化」の情報発信は個人の域をどんどん越えて、浅草、台東区全体で実現を目指すという感じですね。
市原 本当にそういったもので、どんどん押し上げてもらえると非常に活気もでますし、みなさんが幸せになっていくと思います。
今後は職人文化を
絶やさない取組みも
――巨大産業、アニメ産業とは、また違った視点というか。弟さんが「鼻緒すげ職人」をされていらっしゃるとか。
市原 そうなんです。
――日本の職人文化を絶やさないために、職人を育てる「学校づくり」や「履物芸術協会」のような協会を設立したいなどなど、興味深い話しがまだまだてんこ盛りであるんですけど、ここで一息(笑)。何か、お好きな曲をおかけしましょうか。
市原 じゃあ、私の大好きなドリカムの英語版で。『うれしい!たのしい!大好き』
音楽:『This is it!You’re The One!!I Knew it!』(楽曲はYouTubeにリンクしています)
自分も会社も倒さない!
――今、探している宝物はなんですか。
市原 これはもう健康管理です。自分が倒れると会社も倒れてしまいますので、今は毎週テニスで体を動かしています。もっとテニスが上手になればいいなぁなんて思っています。そして、サーブがなかなか入らないので、サーブが入るようになればいいなぁっていう思いもあります(笑)。
――テニス頑張ってください。今日は楽しいお話しを伺ったお礼にもう一杯いかがでしょうか。
市原 じゃあ、遠慮なく、いただきます。
――ごゆっくりお過ごしくださいませ。
市原 ありがとうございます。
有限会社市原商店のホームページ⇒「こちら」
番組サイト『犬とあなたと珈琲と。』
インタビューと文:白田祐子(しらたゆうこ)
うり店長のInstagram
ル・ブラン湘南のInstagram
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合い、犬専門雑誌の監修や執筆も行う。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー、他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。