犬の心理*犬の欲求と自律#1
前回、犬の心を理解するには“犬の行動を観察すること”が重要だと伝えしました。特にわたし達から見て「困った行動」や「問題行動」と言われる行動の原因には“心理的なストレス”が影響していることが多いようです。
今回もストレスの源にもなる「欲求」について“犬の困った行動”に照らし合わせながら考えていきます。あなたの心を曇らせる愛犬の悩みを知るヒントになれば幸いです。
犬の欲求を知る
愛情だけでは満ち足りない
“幸せ“とはどのような心の状態でしょう。
幸せは「心が満ち足りた状態」とも言い換えられます。愛犬の幸せを願い、日々の食事や健康管理に注意しながら、できる限りの愛情を注いでいる飼い主さんは多いと思います。愛犬にとっても身近な人からの愛情は温かく、健やかに生きるための重要な感情です。
でも、愛情をいっぱい注がれて育てられている犬が必ずしも”心が満ち足りている”とは限らないようです。
豊かな感情と欲求不満の関係
犬の持つ感情は私たちが想像する以上に複雑で多様性に富んでいます。例えば、好奇心。自由に行動しながら新たな経験や発見をするチャレンジ精神や学習意欲は特に成長期における犬の自然な欲求です。
自由な行動や豊かな経験をする機会が少なければ、チャレンジ精神や学習意欲が満たされず、ストレスから過剰に吠えたり、過度ないたずらや無闇に走り回ったりするなどの行動が現れる可能性が高まります。これが欲求不満の状態なのです。
犬同士でしか解消できない欲求もある
犬が他の犬に「近づきたい」「ニオイを嗅ぎたい」というのは、同属種同士の本能的な欲求です。でもこのことを忘れている飼い主さんは多いように感じます。
もし、あなたの犬が他の全ての犬を苦手としているのであれば、どこかで認知のズレが起きてしまったのかもしれません。また、犬は群れで暮らす生き物ですから「仲間に加わりたい」というような、犬自身の行動の結果からしか得られない欲求もあることを覚えておきましょう。
自ら考えて行動する
もちろん愛犬の豊かな感情を引き出してあげようと、運動や遊びなどの活動を通じながら心の交流に努めている飼い主さんも多いと思います。
でも、犬が本能や能力に応じたさまざまな欲求を満たしたいと感じたとき、不安や恐怖で思い通りの行動をすることができなかったらどうでしょう。あるいはどのように振る舞えばよいのかわからず、状況に合わない行動をとってしまったら。
仮にその欲求が「他の犬に近づきたい」というものであれば、残念ながらその欲求を満たすことは難しいかもしれませんよね。
もし、犬が〝自らの適切な行動で欲求を満たす“ことができたらどうでしょう。私たちが満たしてあげることのできない心の隙間が埋まり、より豊かな世界を感じさせてあげられるかもしれません。
では犬はどのようなことを学ぶと〝自ら適切な行動を取れる“ように成長するのでしょう。それは次回お伝えしたいと思います。
◎『With a Dog』は犬の認知行動療法と飼い主のコーチングという“心理学を軸”としたドッグトレーニングを行う立場から、ヒトと犬の心と行動の関係についてお伝えしています。
文:白田祐子(しらたゆうこ)
この記事は初出2017年5月18日『犬の心を育む2~ニーズとセルフコントロール』(「犬のココカラ」掲載)を大幅に加筆・修正しました。
Instagram:@doggy_uri
@ル・ブラン湘南
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:公益社団法人日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ、ル・ブラン湘南代表。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した犬のしつけ相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。2014年より神奈川県動物愛護推進員、湘南ビジョン大学講師、2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演中。