犬とあなたと珈琲と。Vol.71コミュ力と犬社会のルールとマナー
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳。愛犬の“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
お客様は常連客のゆきさん(株式会社イヌと暮らす代表取締役)。今回のテーマは「犬同士のコミュニケーション」。どうして、他の犬と上手にコミュニケーションをとれる犬とそうでない犬がいるのでしょう。犬の世界も人間同様コミュニケーションにはルールとマナーが必要。ルールやマナーが身についていないと、他に犬に吠えたり、吠えられたりする傾向が高まってしまいます。では、犬のルールとマナーって、いったいなに?保護活動をしながらトリミングサロンを経営しているゆきさんと、人と犬の関係を研究しているドッグカウンセラーの白田祐子がそれぞれの視点で考えていきます。
祐子 いらっしゃいませ。ゆきちゃん、いつもありがとうございます。
ゆき こんにちは、祐子さん。今日はうら君(写真は下)と来ました。霞ヶ浦の「うら君」。
祐子 うら君久しぶり。かわいいなぁ…。うら君は茨城出身。そうか霞ケ浦の「浦」だったのね。最近はどうですか?お兄ちゃんになってきましたか。
ゆき お兄ちゃんになったところと、パワーだけが増したところの両方ですね。ゆうこさんも知っての通り、生後1ヶ月半で『PAK(Paws Adoption かながわ)』にレスキューされた野良犬の子犬なので、人も犬も大好きだし、素直にノビノビと育っていますね。「THE子犬」って感じの可愛さです。
祐子 何にでも興味を持って、人見知りも犬見知りもせずに元気一杯。本当に「子犬ってこんな感じです」っていうお手本だね。
ゆき そう思います。今はルールとか色々なことを学びはじめている「小学生男子」って感じですね。
祐子 今は、ゆきちゃんのところで、柴犬のみみちゃんや猫達、そしてうら君の兄弟。そういう大家族で暮らしているけど、これからは「ずっとの家族」を見つけなくちゃね。
ゆき うら君の新しい家族絶賛募集中です!
目次
子犬は叱られながら
コミュ力アップ
祐子 うら君(写真上)、きちんと他のワンコにご挨拶ができたね。偉いねー。みみちゃん(写真は本文最後)とはどんな感じ?
ゆき 今、みみちゃんに本気で叱られています。時々、間に入って止めようか悩ましい時もあります。
祐子 あのみみちゃんが本気で怒るんだ。ご飯も食べずに塞ぎこんでいた時期があったことを思うと、なんというか、嬉しいような気もするけどね。
あまりエスカレートして事故が起きそうなら、人間の仲介も必要だよね。群れは、みみちゃんとうら君だけじゃないし、総監督はゆきちゃん。でも、その仲裁するタイミングが難しいよね…ある程度までは犬同士に任せたいし。わたし達もどこで境界線を引くかを普段から観察して見極めなくちゃいけない。責任重大。
ゆき どの時点で止めるかの境界線か…人間側の見極めが本当に難しいですね。
どうしても、犬同士のコミュニケーションって上手にとれる子と、とれない子がいますよね。見ていて心配になっちゃう。
祐子 子犬の時はどうしても嬉しくて「わー!」って近づいちゃうから、年上の犬たちに注意されることが多いよね。
でも、それって、相手の反応を見ながら「どうすれば遊んでもらえるんだろう」って考えるチャンスでもあるから、そのチャンスのあるなしが、将来、他の犬と上手にコミュニケーションをとれるかどうかの分かれ道になってくるんじゃないかな。
ゆき 嬉しくて「わぁわぁ」やって叱られて…。うら君も今はその繰り返し。結果的に遊んでもらえないと自分もつまらないですもんね。
祐子 だから、うら君は、いま幸せな環境だよね。
コミュ力に必要なのは
ルールとマナー
祐子 程度の差はあっても他の犬に「近づきたい」っていうのは、全ての犬が持つ自然な欲求。特に子犬のときは、ちょっと怒られたくらいじゃ、諦めることはないよね。「これはどうだ」「こっちはどうだ」って何度もチャレンジして、犬同士や犬社会のルールやマナーを学んでいく。
ゆき ルールやマナー…。人間でも周りの人達とうまくコミュニケーションをとっていくには、ルールやマナーは欠かせない要素ですもんね。それが犬も同じってすごい!面白いなぁ。
人間でいうところの「コミュ力」は、やっぱり子犬の時の経験がものをいうのかな。
祐子 脳の成長段階とも大きく関連しているから、子犬時代の経験は一生ものだよね。
それに、子犬の時は以前も話したけど「パピーライセンス」があるでしょ。ちょっと無鉄砲なことをしても「子供だから仕方ないよね」って、大人の犬たちが許してくれる。子犬自身もまだまだ怖いもの知らずだから、注意されても落ち込んだりせずに、しつこくしつこく(笑)チャレンジすることができる「宝物」といえる時期だよね。
ゆき はい。すごく大事な時期って前にも教わりました。身を持って学ぶ機会がないまま成長して、ルールやマナーを身につけていないっていうのは、犬もヒトも結構辛いですよね。
犬同士のトラブル。
発端はマナー違反?
ゆき 犬の社会は人間社会より厳しいかもしれない。
祐子 確かに。「世間知らず」程度では済まないのが犬の社会。ルールやマナーを身に付けないまま成長しちゃうと、他の犬から吠えられたり、時には攻撃されたりしやすくもなってしまう。
ゆき うんうん。ドッグランでもそういう子みたことあります。相手を嫌な気分にさせたり、怒らせたりしてしまうのかな。
祐子 ドッグランでは一頭の犬が突然、集中攻撃にあうことがあるよね。集団からの排除。本当に危険なんだけど、この集中攻撃に合う前兆は必ずある。
例えば、「ある時、他の犬に吠えられたのがきっかけで、他の犬に吠えるようになっちゃって…」みたいなもの。この「ある時」というのが、1歳から1歳半頃の場合が多いんだけど、この頃って
ゆき パピーライセンスの切れる時期だ。
祐子 そう。わたし達には「ただ歩いていただけなのに吠えられた」って感じるかもしれないけど、犬同士にしてみたら、もしかすると、こちらにマナー違反があったのかもしれないよね。
例えば、「目をジッと見た」とか「正面から近づいた」とか「胸が開いて頭が上がっていた」とか。「なにその態度」とか「おいやるのか!」ってね。
ゆき 確かに。人は「相手がどうしてきたか」を、どうしても気にしがちだけど、「うちの子はどうしていたのか?」ってことにも、目を向けないといけないってことですよね。その気はなくても、相手の犬は「喧嘩を売られた」って感じるとか…。
祐子 そうね。犬同士のトラブルも「そもそもどっちが先に仕掛けたのか」を議論し始めると、問題はとても複雑なものになってくる。そういう調査依頼も私は受けるんだけど、なかなか厳しい判断になっちゃうよね、賠償額も結構驚く金額になったり…。
ゆき わぁ、怖っ!
コミュ力に悩んでいる
ワンコは意外に多い?
ゆき 子犬たちは大人の犬から、犬社会のルールやマナーを学びながら成長する。でも、それを教える大人の犬も立派ですよね。
祐子 本当にそうだよね。ただ感情的になって、場当たり的に怒るだけじゃ教育にはならないものね。
ゆき うんそうそう。難しいですよね。さっきの「歩いているだけで吠えられちゃう犬」もそうだけど、「コミュ力」に悩んでいる子は多いんじゃないかなって感じます。
祐子 私も「多いかな」って思うかな。例えば、さっきもチラッと言ったけど、犬には、他の犬に「近づきたい」「匂いを嗅ぎたい」っていう欲求があって(同族種だから当たり前だよね)、でも、ルールやマナーが身についていないと、他の犬に避けられたり吠えられたりする。
自分も挨拶の仕方がわからないから自信がなくって、そうこうしているうちに、緊張や不安が高まる。こういう精神状態のとき、犬って必ず…
ゆき 吠えちゃう。あるいは逃げちゃう。パニックになって暴れちゃう子もいるかもしれない。
祐子 近づきたいのに、近づけない「葛藤」が、そもそもの始まりの場合が多いように思います。他の犬と「仲良く」まではできなくても、黙ってスルーすることができれば、何も問題はないんだけどね。それもできないと、犬も家族も苦しいよね。
ゆき 他の犬に吠えてばかりいたり、噛みつくようなことがあれば、散歩に連れて行くのも苦痛になります。
そもそも
犬社会のルールとマナーって?
ゆき ルールやマナーは大人になってからでも学べるんでしょうかね。「コミュ力」ってアップするんですか?
祐子 します。コミュニケーション能力の高い犬って、今話してきたように、一つは犬同士のルールやマナーが身についていることだよね。でも、そもそも犬同士のルールやマナーっていったい何なのか?どういうものなのか。が大切なところ。
ルールやマナーの基本って大きく二つあって、一つは「限度」。
ゆき 限度?
祐子 そう。例えば、子犬が大人の犬や兄弟とかに注意されることって何が多い?
ゆき 見ていると、しつこくし過ぎるとか、愛情表現や遊びのつもりでやったつもりなのに、エスカレートしてちょっと強く噛み過ぎてしまったとか。
祐子 だよね。ある程度までなら許されても、それ以上は「ダメ」という「限度」。
もう一つはさっきから例にあげている、挨拶の時にする「作法」のようなもの。
例えば、「はじめまして」の挨拶をするときには、頭を下げて、横から近づいていくのがマナー。「あなたの敵ではありません。安心してください」って、友好的な気持ちを伝えながら近づく。こういうのって
ゆき ボディランゲージ
祐子 ねっ。ボディランゲージを正しくしっかり使うこと。犬のルールとマナーって「限度」を知ることと「ボディランゲージ」を使うこと。この2つに絞れると思う。
祐子 「限度」は相手ありきだから、あとから学ぶのは少し難しいところもあるけれど、「ボディランゲージ」は、大人になってからでも身につけることがでる。いつも話すけど、犬は「模倣する動物」だから、他の犬の真似をする。
ただ、真似をするには観察することが必要で、観察するには落ち着くことが必要。落ち着くところからのスタート。
そこが一番のハードルの高さなのかもしれないけど、落ち着きを教える方法はその子の状態別に色々あるから、見様見真似でチャレンジして、かえってダメージを与えないためにも、悩んでいるなら、相談してもらいたいなぁ。早ければ早い程、本来のその子の姿を取り戻すことができるから、専門家に相談してもらいたい。
ゆき そうですね。「落ち着かせる」のは人間がするのだから、人間が専門家にお勉強させてもらうって感じですね。
一緒にいたいから
ルールを命がけで教える
祐子 犬がルールやマナーに厳しいのは、平和主義のあらわれでもあるよね。
ゆき はい。群れを安定させるために必要だって聞いたことがあります。
祐子 群れの中に逸脱した行動をとるものがいれば、喧嘩が始まったり、チームワークが崩れて、例えば、狩りに失敗するとか、子育てがうまくできないとか、群れの崩壊や命の危機と隣り合わせの状態にまで発展しかねない。
だから、口うるさいし、真剣に注意するし、大人の犬たちは辛抱強く子犬の相手をしてあげるんだよね。
ゆき 言ってみれば「命がけ」でルールを教えるんですね。
祐子 ルールやマナーっていうよりも「犬の掟」って言った方がぴったりかもしれないね。
ゆき 群れで一緒に過ごしたいし、それが大事だから。なんかもうすでに感動。
犬は私たちに
平和を求めている
祐子 挨拶の仕方以外でも、「ボディランゲージ」で気持ちを伝えあって、無駄な争いが起きないように配慮もしているよね。
ゆき 確かに。よく見ているとボディランゲージでお話ししていますね。
祐子 例えば、挨拶の時にする「頭を下げる」のは、ボディランゲージの中でも『カーミングシグナル』って呼ばれるよね。
ゆき はい。「カーミングシグナル」。例えば「あくび」とか、舌をペロっと出して、自分の口を舐めるみたいなのもある。「あくび」は一見リラックスしているようにも見えるけど実は違うし、「舌をペロ」ってするのも「可愛い」って思う人もいるかもしれないけど、犬の気持ちはちょっと違う。
トリマーさんは、実はよく見る光景なんですよね。
祐子 あーそうだよね!ゆきちゃんは、トリマーさんだから仕方がない…。ワンちゃんはなんて言ってるの?
ゆき 「もうやめて下さい」とか「ストレスです」とか「もういいよー!」って、そんな感じですかな。
祐子 ねっ、ちょっと残念だけどね。
「カーミングシグナル」の「calming」は「落ち着かせる」。意味は3つに分けられるかな。
一つは「緊張してるな」って感じた時に「自分落ち着け」って自分自身に向けたもの。もう一つは、「まぁまぁ落ち着いて」とか「大丈夫だよ、安心して」って相手に伝えるもの。そして最後は「私は安全ですよ。仲良くしましょう」って、争う意思がないことを表明するもの。
ゆき なるほど、3つも分けられるんですね。「自分の気持ち」を伝えるだけじゃなくて、「相手の感情」に対しても訴える。落ち着くこと、争わないことですね。
祐子 緊張や興奮が過剰になると、たいていイイコトは起こらないもんね。
ゆき 犬たちは、私たち相手に平和を求めていますよね。人間こそ興奮しやすくてね。
祐子 おー!「犬たちは私たちに平和を求めている」。さすが。出た!ゆきちゃんの名言。
音楽: Sia『Candy Cane Lane』(楽曲はYouTubeにリンクされています)
もっと
ボディランゲージを読み取ろう
祐子 もし、何頭かの犬がいて、自分のワンコが「あくび」をしていたら、本当に眠たい時もあると思うけど、実は緊張している犬が他にいるのかもしれない。それが分かると、他の犬をケアしてあげることもできるし、私たちも「もう少し落ち着こう」って教えてもらえる。
ゆき 犬たちのボディランゲージ。私たち人間がちゃんと見ていないといけないですね。このシグナルは言ってみれば「犬語」?犬たちは学校も先生もいないけど、どうやって、カーミングシグナルを身に着けたんでしょうね。
祐子 じゃあ、今度来た時に、その辺とどんな「犬語」があるのか、そしてそれをわたし達はどんな時に使うといいのか。なんかを一緒に考えてみましょうか。
ゆき そうしましょう。私も学んで「犬語」を話せるようになりたい!「犬語」については、「本当に全ての犬が使えるのか」とか、色々な疑問もあるので楽しみです。今日も面白かったなぁ…。
うら君は「人間がダラダラお喋りしているときは寝てよ~」ってことを学んでいます。
祐子 そうそう。犬たちは辛抱強い(笑)今日も楽しい犬談義のお礼にもう1杯いかがでしょうか。
ゆき はーい。いつも、ありがとうございまーす!
祐子 はい。ごゆっくりお過ごしくださいませ。
番組サイト『犬とあなたと珈琲と。』
保護犬猫支援店/トリミングサロン『イヌと暮らす』
放送構成と文:白田祐子(しらたゆうこ)
うり店長のInstagram
ル・ブラン湘南のInstagram
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合い、犬専門雑誌の監修や執筆も行う。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー、他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。