犬とあなたと珈琲と。Vol.6 仙光院 成井 秀仁
FM83.1Mhz レディオ湘南(毎週金曜 16:00~16:29)放送中。宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。ここで“宝物”の話をすると探し物が見つかるとか?…オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の愛犬“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は葉山にある“仙光院の副住職”成井秀仁さん。ご住職の子供の頃の宝物は「いつも抱いて寝ていたうさぎの抱き枕」。でも「汚れたので捨てなさい」と親に言われ、気付いた時にはなくなっていてショックを受けたそう。仙光院ではペットが虹の橋に旅立ったときから、火葬・納骨・法事まで僧侶が寄り添い、ゆっくりお別れをすることができるそうです。ペットの遺骨を手元に置いている方は多いと思います。どのようにするのがよいのかご住職に伺いました。
――いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。
成井秀仁さん(以下:成井)こんにちは。
――こんにちは。お久しぶりです。今日はお会いできるのを楽しみにしていました。
成井:ありがとうございます。
――今、ちょうどカウンターの下にうり店長が寝転がっていますが、成井さんもワンチャン猫ちゃんと暮らしていた経験があるそうですね。
成井:そうですね。ワンちゃんも猫ちゃんも飼ったことがあるんですけど、去年猫ちゃんが亡くなってしまい、シェルターさんに保護犬保護猫をお願いしているところです。
――素敵なご縁があるといいですね。プライベートでは成井さんとお苗字で呼ばせていただいていますが、葉山の仙光院の副住職さんでいらっしゃるのですよね。
成井:はい。うちのお寺は葉山にある高野山真言宗のお寺です。私の父で37代目となり、1504~20年に長覺阿闍梨(ちょうかくあじゃり)が開基したと伝えられおります。私の父のお父さん(祖父)とお母さん(祖母)が東京で呉服店を営んでいたんですけど、戦争で焼けて住むところがなくなり、祖父は高野山に引き取られたそうです。私の祖父が高野山の第36代目に就任して、それから父、私と続いています。弟の阿里も一緒に切り盛りをしています。
目次
お寺は
絶好の遊び場⁈
――子供の頃、家がお寺ということで他の子との違いや特別感のようなものを感じたことはありますか。
成井:うーんー…父はその頃、逗子市役所に勤めていましたので特別感は特にありませんでしたが、法要とかお葬式とか法事とかあるじゃないですか、その時は「静かにしていなさい」とよく言われていましたね。
――境内って、絶好の遊び場だったと思んです。お友達のたまり場になったりは?
成井:しました、しました。お寺で隠れん坊をしたり本堂で走ったりしていました。
――本堂でですか!きっとお友達の間でも語り継がれているのでしょうね。「俺はお寺の本堂で走り回った」とか。
成井:そうですね。うちのお寺の境内がちょっと変わっていて、今は違いますが、昔はお墓が通学路になっていたんですよ。ですので、みんな同級生とかは「あそこをよく通ったよね」って話しています。
――お墓も楽しい思い出の場所、とても身近な場所ということなんですね。
成井:そうですね。「なるピーの家のお墓」って言われていました。
お寺の長男に
生まれて
――お寺のご長男と聞くと“人生の道筋”は、ある程度決定づけられていたのかな?なんて、私は思ってしまいますが、実際はそうでもなかったと聞きました。
成井:そうですね。父は特別「お寺で働け」とは言っていなかったので、私自身30歳手前まで一般のお仕事をしていて、社会に出ていろいろな経験していく中でお寺での仕事に魅力を感じていったのかなと思いますね。人の為になる仕事に惹かれたのだと思います。
――お寺に入ろうと決心した日のことは覚えていますか?
成井:祖父から父に代わってちょっと大変だったみたいなんですね。それで、その頃に電話がかかってきて「手伝ってくれないか」って言われました。あの日が僕のターニングポイントだったのかなと思います。
――電話だったんですね。その時はなんてお返事されたんですか?
成井:やっぱり「少し考えさせて」って言って、あとから連絡しました。
大切なお人形を
捨てられて…
成井:ここTAKARA CAFÉで宝物の話をすると、探していた宝物に出会えるという噂を聞いたんですけど本当なんですか。
――言葉にすると、心の整理がついたり、今まで気付かなかったことが見えてくる…そういうことってあるかもしれませんよね。もしよかったら“宝物の話”聞かせてください。
成井:幼稚園ぐらいの時まで、寝るときに必ず人形を抱いて寝ていました。親に「もう汚いから捨てなさい」と言われてショックだったのを覚えていますね。
――捨てなさいと言われてどうされたのですか?
成井:それが、僕の知らないうちに捨てられていて、本当にすごいショックだったのを覚えています。
――かなり幼少の頃の出来事を覚えてらっしゃるという事は。本当にショックだったんだと思います。そのお人形さんってどういうお人形さんだったんですか。
成井:モンモンという、何て言えばいいんですかね…名前がモンモンだったんですよ。うさぎの形をして抱えて寝られるような感じのお人形さんでした。
――モンモンちゃん…(笑)そういえば、仙光院さんでは人形の供養もされていますよね。
成井:人の気持ちが入ったものは魂が宿るとされています。お人形さんなどを読経と真言宗の作法によって魂抜きをさせていただいております。郵送でも承っていまして、箱の中にお人形さんとの思い出が詰まったお手紙をいただくことがあるんです。感謝のお手紙がいっぱい来ていますね。
ペットとのお別れも
ゆっくりとした時間を
――ペット葬もされていて、火葬から葬儀、納骨、そして、法事もできるんですよね。3月には合同動物供養祭もされていて、動物と暮らしている方からはすごく頼られているのではと思います。
成井:はい。供養させていただいています。人と同じように供養させていただいております。
――私はこれまで2頭の愛犬を見送っています。火葬の依頼など事務的な手続きをするのがとても辛かった記憶があります。そのため、お友達から連絡がきた時はすぐに自宅に会いに行って、その後の手続きを代わってあげることもよくあります。多くの場合、最初に連絡をするところは人間であれば葬儀社、ペットの場合は火葬場というのが多いと思いますが、仙光院さんは最初の相談から直接していただけると聞きました。
成井:そうですね。私たちの方に直接火葬のお電話いただくんですが、本当に悲しすぎて会話ができなくなるって言うことも多々あります。手続きを代わってあげられるのって、本当に負担を軽くしてあげられると思うんですよ。そこで、私たちは葬儀社などが行っている相談を直接僧侶が担当して寺院を会場に通夜や告別式を行えるよう“NEN”という会社を立ち上げました。
仏教を感じてもらう。
それが使命
――NENはどういうきっかけで立ち上げたのでしょう。
成井:幼いころに見た葬式の風景はやはり違ったんですね。僕のおじいちゃんが住職だった頃って…僕が小学校低学年頃位までかな、近所の人が亡くなるとまずお寺に電話がかかってきて“隣組”っていうのがあったんです。隣組が話し合って段取りを決めてお寺で料理を振る舞っていたんですよ。結構、色んな方が来て大変そうだったんですけど、もっともっと人と人とが密着していて時間もあったんですね。
今の時代はちょっと時間的に厳しいところはありますが、昔の良いところを取り入れて、しっかりゆっくり故人の方をお見送りする場ができればと思ったんです。NENでは仏さんの前でゆっくりと安心してお見送りができますし、祭壇が元々あるのでお花などの費用もあまりかからないというメリットもあります。
――最近は御朱印ブームや寺院でコンサートを開くなど、神社仏閣がよりカジュアルになってきた印象もあります。それに対しては目くじらを立てる人もいますが、このような側面をご住職はどうお感じですか。
成井:もちろん必要だと思います。僧侶である以上はどんな形でもお寺にきていただいて、仏教を感じていただくことが使命だと思っています。
袈裟を身につけることで
仏様と一体に
――仏教を感じる…深い言葉ですね。私は高校大学と仏教系でした。ですからお寺やお坊さんには少し親しみを感じますが、一方で僧侶を前にすると緊張するという方も多いように思うんです。白衣のドクターを前にすると心拍数があがるのと似ているのかもしれません。袈裟のパワーというのもあるような気がしますが、どうなんでしょう。
成井:うん。本当に袈裟はパワーがあると思いますね。如法衣(にょほうえ)といってお坊さんが肩からぶら下げているのがあるじゃないですか。昔、布は貴重だったので各家が布を貰って布を継ぎ合わせて作っていたんです。そして如法衣が袈裟になっていったんですね。ですので、袈裟をしないと私たちは坊さんではないんです。袈裟が仏様になりますので。
――じゃあ、袈裟をかけていない作務衣姿のご住職は?
成井:お坊さんではあるんですけど…正確にはお坊さんではないですね。
――あのきらびやかな袈裟も元々は布と布を繋ぎ合わせて作っていたということなんですね。
成井:そうですね。原型はそういうことになります。
――ご住職はお寺に入る前はアパレル系にもいらっしゃったということで、ファッションがお好きなんですよね。袈裟とファッションに関するお話しなんかをされると、とっても新鮮で面白いのかなと思いますがどうでしょう。
成井:袈裟とファッション?‥‥袈裟とファッション…。なかなかコラボレーションしないものですけど、人に見ていただく以上は両方とも大切なものだと思います。
――罰が当たりますね。大変失礼しました。
成井:いえいえ
土から草木となり蘇る
それが「縁」
――私がよく質問されることの一つに「愛犬の遺骨を自宅に置いたままなんだけど、どう思う?」というのがあります。実は私も1頭は手元に置いたままなんです。ご住職がこの相談をされたらなんとお答えになりますか。
成井:この質問はペット火葬をしているので、本当によくされるご相談です。昔は土葬でお骨は土に還っていましたよね。でも衛生面の観点から火葬に変わって、お骨を運ぶために骨壺が作られたんです。
――運ぶためのもの。
成井:そうです。骨壺は運ぶためのものです。遺骨を火葬して入れ、移動するときに使うものです。自宅に置いといたままだと骨壺も陶器製ですし土に還らないですよね。土に還らないと草木にかわらないですし、生命にもかわらないですね。土に還ってもらって草木にかわって生命にかわって、そしてまた私たちと出会える。 それが仏教でいう”縁起”というものなんですね。「縁がある」ということです。その縁があると必ずまた出会えるようなカタチになっているので、私たちのお寺では“土に還ること”をおすすめしています。
でも、それだったらやっぱり寂しいじゃないですか。埋めちゃったとなると。ですので、一部を分骨カプセル等でお持ちになられて、毎日手を合わせてあげるのもいいかもしれませんね。
――とっても、参考になりました。ここで、何かお好きな曲をおかけしましょうか。
成井:JAZZで深尾トリオの『G‘s』という曲をお願いします。葬儀でお花のお手伝いしていただいている方なんです。とても和やかな気持ちになるんです(楽曲はYouTubeへリンクされています)。
これからの挑戦と経験を大きな宝物へ
――今探している宝物はなんですか。
成井:いろいろな事に挑戦していきたいと思います。そこで得たことが宝物になると思います。実際一人で経験するよりいろいろな人と経験する方が身にもなりますし楽しいですね。これまでの経験や友人や家族等の宝物はありますが、それらを少しづつ大きくしていきたいですね。
――アイデア豊かなご住職の想いが広がっていきますよう、私も陰ながら応援させていただきたいと思います。ところでご住職、時間のあるときはどのように過ごされていますか?
成井:週一くらいで“鷹取山”という山があるんですけど、そこに登りに行ったりとか運動をしています。
――静と動のバランスを保つということがやはり大切なんですね。今日は大変為になるお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。お礼にもう一杯だけ珈琲いかがでしょうか。
成井:ありがとうございます。お願いします。
――ごゆっくりお過ごしくださいませ。
成井:はい。ありがとうございます。
仙光院のホームページは「こちら」
番組サイト⇒『犬とあなたと珈琲と。』
インタビューと文:白田祐子(しらたゆうこ)
Instagram:@doggy_uri
@ル・ブラン湘南
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。2014年より神奈川県動物愛護推進員、湘南ビジョン大学講師。2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演中。