犬とあなたと珈琲と。Vol.3 菊田 奈々
FM83.1Mhz レディオ湘南(毎週金曜 16:00~16:29)放送中。宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。ここで“宝物”の話をすると探し物が見つかるとか?…オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の愛犬“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は、『結び屋虹園』の屋号で活動されている“水引アーティスト”の菊田奈々さん。菊田さんの明るさや美しさは子供の頃からの宝物「何か面白いものはないか!のアンテナ」から発信されているようです。国内外で展示販売も大人気の菊田さんが生み出す美しいアクセサリーや雑貨の数々。水引との出会いとは?そして水引に込められた“贈る相手を思いやる心”とは。
目次
和紙の“紙縒り(こより)“に
水糊を引いた紐
――菊田奈々さん。奈々さんは、水引から美しい作品を生み出して、それを『結び屋虹園(こうえん)』と言う屋号で販売もされている“水引アーティスト”ですよね。「結び屋虹園」として、活動しはじめて、どの位経ちましたか?
菊田奈々さん(以下:奈々):「よし!はじめるぞ!」って、オンラインショップをオープンして販売し始めたのが2017年の元日だったので、外に向けて発信し始めてから5年と少し。水引のむすびに触れてからは6年弱といったところでしょうか。
――6年弱でとんでもなく色々な活躍をされていてとても興味があります。その前に私は「水引」と聞くとご祝儀袋のリボン結びや飾りそのものを思い出します。でも、本当は飾りの「紐」の素材が「水引」なんですよね。
奈々:そうなんです。紐そのもののことです。飾りのことを水引とお思いの方も多くいらっしゃる上、私の作品が水引に見えないという性質も相まり「この素材は何ですか?」という不思議な会話が始まってしまうことが多々あります。
水引飾りというと、金や銀・赤や白の飾り結びをご覧いただくことが多いかと思いますが、元は和紙の“紙縒り(こより)”でできています。飾り結びとして発展していく中で、現在の鮮やかな紐に進化しました。和紙の紙縒りを芯にして、そのまわりを人工絹糸やテープなどを巻いて着色されているので、試しに解いてみると中から短冊状の和紙が現れますよ。中には今でも紐に直接塗装されている水引もあります。元々和紙の紙縒りに「水糊を引いて」強度を与えた紐だから、「水引」という名前になった。という説もあります。諸説あるようですが。
思いやりの心を
“紐”で表現する粋
――このような「日本独自の文化的なもの」は一つ一つに深い意味を持っていたりしますが、やはり水引も結び方に色々意味がありますか?
奈々:そうですね…。この辺のことが気になって仕方なくて、未だに研究を続けています。結びにまつわるストーリーを知ることが作品としてカタチにしていく原動力にもなっています。水引の結びには古くから伝わる意味があると思っていました。でも、つい最近の私調べでは水引の起源から水引飾りへと変わっていく間には紆余曲折があって、いま伝えられている“吉凶のシステム”が採用されるようになったのは、ここ100年くらいのことのようなんです。
ここは喋り出したら2日くらいかかるので、割愛しますが(笑)
かつて百貨店さんなどでお買い物をすると、実際に水引を結んでくれたり、今では「熨斗紙かけますか?」って聞かれて、印刷されている紙をかけてくれたりしますよね。あの“輪っか”が二つ並んで、紐が上向きにキュッと結ばれたものが“あわじ結び”です。あわじ結びは一番基本にして、一番奥深い結び方で「末永いご縁を祈る」という意味があると言われています。だから「これからも仲良くしようね」というメッセージを贈り物に添えていたということです。そんな“思いやりの心”を紐で表現するなんて粋だなぁと思います。
因みに、この“あわじ結び”はお祝い事や弔いにも使われるオールマイティな結び方です。パッと見は同じに見える結びでも、それぞれにちゃんと込められているものがあるんです。そういうところに日本の心のフラットさとか、視点を変えることで中庸的な考え方になるようにフレキシブルに捉えるところが、すごく穏やかで日本的だなぁと思えてすごく胸が熱くなるんです。本当はここに4時間分くらいのストーリーがあるのですが(笑)。
はじまりは100均で
ロックオンしたクラフト紙
――そもそも水引と出会ったきっかけは?
奈々:出会いは100円ショップです。正直、全然ロマンチックじゃないんですよ。その頃、すごく持て余していて、やっていたグラフィックデザイナーの仕事もなんとなくぼんやり続けていて。そんな中100円ショップをプラプラしていたら、やたらかわいい折り紙に私の瞳はロックオンされたんです。
常に「なにか制作に使えそうなそうな物はないかな」という目で世の中のモノを見ているので、そのレーダーに引っかかったんですね。明らかに100円ショップのクオリティーを超えている紙で、クラフト紙だけど和模様の地紋がついていて「何か作りたい!」って、すぐに手に取っていたんです。
でも、何を作ろうか。この可愛い紙を素材に、何を仕上げるのがベストなんだろうって、細胞が総動員でこの紙の使い方をイメージしていったんです。そこで「凝った紙だから、凝ったものを作ろう!」という発想がでて、このサイズで実用性のあるものなら、小さな袋が限界だろうなあ、と思った時にぱっと閃いたのがご祝儀袋でした。
ご祝儀袋を作って“ぽち袋”にしよう!そこで「じゃあ、水引か」ってなるんです。そしたらなんと折紙売り場の裏側に水引があったんです。水引が丸まって入ったパッケージの裏面には「結び方」が記載されていて、「結び方があるのか」って知り、私は結びの森に足を踏み入れていきました。
バチッ!と来るものを
探し求めて
奈々:あの祐子さん『TAKARA CAFÉ 』でね、宝物の話をすると“探していた宝物に出会える”って噂を私聞いちゃったんですけど本当なんでしょうか。
――なにかを言葉にすることで、心の整理がついたり、今まで気付かなかったものが見えてきたりすることって、あるかもしれませんよね。もしよかったら“宝物の話”聞かせてください。子供の頃の宝物はありましたか?
奈々:子供の頃はあんまり「私はこれだー!」みたいのがなく、「その時、好きなことに没入したい」というようなことをぼんやり思っていたように思います。自分は飽きっぽいと思っていましたが、“バチッ!”とハマったものについては とことんしつこく追求し続けるタイプだったので「これだー!」とバチッとくるものをいつも探し求めていたのかもしれません。いつも枯渇しているような…。
――例えば、これまでどんなものにバチっと来たの?
奈々:ユッケジャンクッパ!(笑)
――自分で作って?食べ歩き?
奈々:最初はインスタントです。子供の頃に味にバチっときてしまって。しつこいくらい、なんだろね、中毒している感じです(笑)
――水引にもバチっと出会い水引の世界に没頭していった。水引と出会った頃と今では何か自分の中で変化みたいなものはありますか?
奈々:もう人生180°変わったと思います。こんなになにかに没頭したことはほかにはないんですよね。
結びのストーリーを
世界に届ける!
――作品を作るだけはなくて、日本各地での展示販売も大人気ですね。
奈々:ありがとうございます。嬉しい。先日も大阪、京都と巡業していました。夏前には広島、そのあとはまた京都って巡業があるんですけど、間にもちろん地元神奈川でも出展するんですよ。
――パリにも行っていましたね。
奈々:2019年はNYとパリで出展しました。
――海外での反応はどうでした?
奈々:この結びに纏わるストーリーを大切に私は作っていますが、そこを伝えるのは文化的なことや体感的なこともあって「難しいかな」と思っていましたが、フランスの方もこのストーリーの部分にすごく興味を持ってくださって、沢山の方に喜んでいただきました。
――会話は英語で?
奈々:それが…パッションだけで初パリに突っ込んで行き、始まって2日間はアプリや拙い英語や身振り手振りでなんとかコミュニケーションしていましたが、2日目の夜に「もっと伝えたい!」という想いから、パッション切れになっちゃって、急遽通訳さんを探していただいたというお土産話がございました。
――また湘南エリアで出店する予定はありますか?
奈々:それがなんと、4/22~29の一週間、恒例の大船ルミネさんの正面入り口前で出店させていただきます。少し先ですが7月は茅ヶ崎のラスカさんにもお邪魔します。
――私は以前大船でハートとフラミンゴのブックマーカーを買ってお気に入りのアイテムになっています。来週の金曜日からですね。行かなくちゃ。
奈々:ぜひ!私は毎日ずっと売場におりますので、ぜひ気軽に声をかけてください。
日常で“縁起物”をまとい
ちょっといい気分に
――少し儀礼的な印象の水引をアクセサリーや雑貨などにカタチを変えて世の中に送り届けていますが、これから作っていきたいテーマとかありますか?
奈々:元々礼法の中の結びだったので、かしこまった印象なのは全くその通りです。儀礼や儀式を通じて進化してきた文化なのでそう感じるのは当然なのですが、せっかくこんなに“いい意味”があったり、“面白いストーリー”があったりするのだから、もっと「日常に使えるモノにならないかな」という思いがアクセサリーを結び始めたきかっけです。
お祝いの席だけではなくカジュアルに気楽に身に着けてもらって、でも実は“縁起物を身に付けちゃっている私”という風に、“ちょっとイイ気分”になれるようなアイテムになれたらと考えています。
――奈々さんはワンコのまるちゃんと暮らしていますよね。ワンちゃん用のアイテム、例えば、首輪につけるアクセサリーなどがあると素敵だと思います。
奈々:実はワンちゃんグッズはずっと構想していて、いつかつくってみたいもののひとつなので、そろそろ出ちゃうかもしれないですね…
――本当ですか!犬の形に結ぶとかは?
奈々:考えたことなかった!
――デザイン力の高さと結びの技術で犬型の水引を作ってくれたら嬉しいなぁ…
奈々:考えます。即、考えます!
――新しい作品に対するインスピレーションが必要な時やスランプから脱出したいときもあると思います。そういうときの特効薬的なものは?
奈々:海とか自然ですね。最近は塩づくりにはまっています。
――すごく興味深いですが、話を聞き出すと閉店時間になりそうです(笑)。いつも話が面白くて、笑顔がキラキラしていますが、自分の性格で好きなところや自慢できるところは?
奈々:寝たら忘れる。ドーパミン過多!(笑)
――では、ここで一息、何かお好きな曲をおかけしましょうか。
奈々:私が単独で借りられるギャラリーとか小さな箱で展示販売をするときによくかけている曲です。すごく好きな曲でかっこよくて、私ピアノを弾くのがすごく好きなんで楽しくなっちゃうんです。
H ZETTRIOの『Dancing in the mood』をお願いします(楽曲はYouTubeへリンクされています)。
好きと思えるものは
全部宝物!
――今探している宝物はありますか?
奈々:宝物は「好きだ」と思える気持ちが沸き起こるものなんでも!「好きだ」って気持ちはなろうとしてなれるものじゃないので、好きと思えるものは全て宝物だと思います。だから死ぬまでに、いっぱいいっぱい集めてホクホクした気持ちでいたいです。
――好きと思えるものは全て宝物。いいですね。奈々さんの美しさは、そういう“好き”や“ホクホク”した気持ちが現れているのだなと、今日久しぶりに会って改めてそう思いました。お話しを聞かせていただいたお礼にもう1杯いかがでしょうか。
奈々:ぜひお願いします。もうちょっと飲んじゃおうかな。
――ごゆっくりお過ごしくださいませ。
奈々:ありがとうございます。
菊田奈々さんの
番外編!
――以前、夕刊紙にドーンと色鮮やかな写真があって、目を止めたら水引で「もしや?」と思ったら、奈々さんの顔写真があって驚きました。本を出版された時期でしたか?成功の形ってひとそれぞれ違うと思いますが、ここに来るまで経験した最大の成功や誇りは?
奈々:えー!「もしや?」と思ってくださることがとっても光栄です。本の出版はもう少し前だったかな。これまでメディアや媒体で扱っていただいたことはありましたが、私にとってはただただミラクルです。「何か分かんないけど、こんなことになったー!」って、ミラクルごっこして、その中を暴走してきた状況。なので、どなたかの役に立っているのかは分かりませんが、今後「お役に立てている」と実感できる時が来たら、それが成功や誇りだと言えるようになると思います。
――これまでのお気に入り作品は?
奈々:手前味噌ですが「これまで生み出した全ての作品」がお気に入りと言えます。でも、その軌跡というか結びを深く知り“面白いストーリー”を咀嚼することで、私自身の血肉となり作品も進化していると思うので、最近の作品は最初の頃に比べると納得できるようになってきています。ストーリーをちゃんと踏襲したうえで、アートとして還元するような「むすび」の作品を作ってみたいです。
菊田奈々さんの『結び屋虹園』
インタビュー・文:白田祐子(しらたゆうこ)
番組サイト⇒『犬とあなたと珈琲と。』
Instagram:@doggy_uri
@ル・ブラン湘南
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。2014年より神奈川県動物愛護推進員、湘南ビジョン大学講師。2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演中。