INUBITO Diary 熱中と夢中のあいだ
今からでも、夢中になることに出会えるかな。
わたしが好きなフジモトマサルさんの絵に、作家の吉田篤弘さんが文をつけた物語集『と、いうはなし』(ちくま文庫)に、「とにかく」という一篇がある。はじまりはこんな感じ。
『まずは、「気になる」ことから始まる。
気になって、「いいなぁ」とつぶやくうちに心があたたかくなり、あたたかさで熱をおびた心は「熱心」と誰かに呼ばれる。熱が冷めなければ次第に火が宿され、気づくと火に包まれ「熱中」の人となる。―中略―やがて火中の熱さにも気づかなくなり、いつのまにか、火ではなく夢の中に入り込んで、もう「夢中」である。―中略―夢中が高じてくると、ついには「虜」となり、囚われの身となって、やがて「自分」が失われてしまう』
その後はこんな風。
「自分を見失う」ことはよくないことに数えられるけれど、人は常に「我を忘れること」に出会いたいとどこかで願っていて、それは、理屈ではなくて、とにかく気になって、とにかく本能的で、仕方ないことなんじゃないかな。
そうかもしれない。
犬も同じだな、なんて思う昼下がり。古いアルバムを見ていると、ティッシュの外箱を細かく千切り、山下清風に仕上げた一枚のアート写真。一枚残らず引っ張り出したティッシュの上で笑う先代犬。発見した時は「細かくやったねー」と笑った。相当時間かかったよねって。いい仕事してる。そういえば、寝ようと思ったら布団から無数のじゃがいもが出てきたこともあったっけ。
犬は楽しいものを見つける名人。
何か見つけて、それが気になって、触ってみたら面白くて、夢中になって、そのうち止まらなくなって、我を忘れてしまう。
私も幼いころはそんな夢中になれることがあったかもしれない。
今はどうだろう。
足元には子供の頃もあまりイタズラをしなかった一匹。
「帰宅したら布団から綿が飛び出て、雪国みたいになっていたことがあったよね」。そう話しかけると、「イタズラなんて子供のすること」って、耳だけ動かし、また眠る。
大人だねー。16歳だもんね。なんだかちょっと寂しく呟いてみる。
文:白田祐子(しらたゆうこ)
Instagram:@doggy_uri
@ル・ブラン湘南
白田祐子(しらたゆうこ) プロフィール:認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表・ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。2014年より神奈川県動物愛護推進員、湘南ビジョン大学講師、2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演中。