犬とあなたと珈琲と。Vol.2 井上 恵
FM83.1Mhz レディオ湘南(毎週金曜 16:00~16:29)放送中。宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。ここで“宝物”の話をすると探し物が見つかるとか?…オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の愛犬“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は、日本語教師で『湘南やさしい日本語プロジェクト』の井上恵さん。日本語教師を目指したきかっけは、高校生のときのアメリカ短期留学。それまで学校では「みんなと違うって変」「同じじゃなきゃ怖い」と思い込んでいたそう。でも、アメリカで「なんだ、言葉も文化も違うのに仲良くなれるじゃん」と人生が明るく!普段わたし達が話す日本語と「やさしい日本語」の違いもじっくり聞いてみました。
目次
大災害の反省から生まれた
「やさしい日本語」
――こんにちは。恵さん、ようこそお越しくださいました。
井上恵さん(以下:井上)こんにちは。祐子さん
――お久しぶりです。今日ご来店いただけると聞いて楽しみにしていました。
井上:私もとっても楽しみでした。もうワクワクしています。
――カウンターの下に“うり店長”がいますが犬は大丈夫ですか?
井上:はい大丈夫です。とてもかわいいですね。
――動物と暮らした経験はありますか?
井上:動物はないんです…でも、私の家の前が犬の集まるスポットになっていて…(笑)
――ご実家ではザリガニを20匹近く飼っているとか。
井上:そうなんですザリガニかわいいんですよ。実の弟がザリガニが大好きで。ザリガニも性格が違うのが面白いです(笑)
――恵さんは日本語教師をされていますね。
井上:そうですね。日本語を外国語として学んでいる人に、日本語を教えています。外国の人は留学や仕事など色々な理由で勉強をしていますが、その目的に合わせて“生きた日本語”を教えるのが日本語教師の仕事です。
――去年、「湘南やさしい日本語プロジェクト」を設立して、やさしい日本語の認定講師として活動されています。“やさしい日本語”というのは、そもそもどのような発想から生まれたものなのでしょう。
井上:阪神淡路大震災や東日本大震災の時には、「速やかに高台に避難してください」という避難情報が出たんですが、それが難しくて、外国の人に伝わらないということがありました。結果として多くの外国人が逃げ遅れて、犠牲になってしまいました。「速やか」「高台」「避難」のように難しい言葉ではなくて、「すぐに高いところに逃げてください」と言えば、日本語の勉強を始めて1年くらいの人でもわかります。
日本にはいろいろな国の外国の人が住んでいますが、実は英語がわかる人よりも、日本語がわかる人の方が多くて、さらに易しい表現なら多くの人に伝わります。その災害の反省から、優しい気持ちと、易しい表現で伝える「やさしい日本語」が生まれました。
多くの日本人は、外国人との交流がうまくできないのは英語力の問題と考えますが、むしろ日本語で話した方がいいので、そういう日本人の心の壁を取り除いて、日本人と外国人の懸け橋になりたいと思って、湘南やさしい日本語プロジェクトを作りました。
井上:そうだ…ここ『TAKARA CAFÉ 』で宝物の話をすると、探していた宝物に出会えるって噂をきいたんですけど。
――なにかを言葉にすることで、心の整理がついたり、今まで気付かなかったものが見えてきたりすることって、あるかもしれませんよね。もしよかったら“宝物の話”聞かせてください。
“旅の神様”が刻まれた
メダルのネックレス
――めぐみさんの宝物はなんですか。
井上:初めて1人で外国に行ったのが高校生のときで、その時、父にもらった“旅の神様”のお守りというネックレスです。セントクリストファーという“旅の神様”が刻まれたメダルがついているネックレスでした。
――貰った時はどういう気持ちでしたか。
井上:アメリカへ夏休みの短期留学だったんですが、海外も初めてだし成田空港も初めてで、すごくドキドキしていたので、身につけられるお守りって安心感がありました。
同じことは嬉しいけれど
違っていても面白い!
――高校生の時に海外への短期留学。それは自分で決めた?
井上:実は小学校・中学校・高校と学校生活をそんなに楽しめていなくて、唯一居心地がよかったのが英語教室。その先生が勧めてくれたので、「じゃあ」という感じでした。でも、行ってよかったです。
それまで学校では「みんなと違うって変」とか「同じじゃなきゃ怖い」と思い込んでいたんですが、アメリカで「なんだ、言葉も文化も違うのに仲良くなれるじゃん」と気が付いて、そこから人生が明るくなりました。
――その留学の経験は人生に影響を与えましたか?
井上:そうですね。「同じことは嬉しいけど、違っていても面白い」と思えるようになって、人も自分も大切にできるようになりました。世界の人と出会いたくて大学時代から国際交流イベントを企画したり、仕事も日本語教師の道を選んだり、ここがきかっけです。
はっきり・最後まで・
短く。伝える
――私たちが海外の方たちと交流するとき、日本人的な癖みたいなものが出たりしますか?
井上:例えば、日本には「あうんの呼吸」とか、「察し」とか、「空気を読む」というのがありますよね。「ちょっと暑くないですか」というのは、だいたい「窓を開けてほしい」とか「エアコンをつけてほしい」という意味だったりすると思います。
でも。こういうのは、はっきり言う文化の人には、ちょっと伝わりにくいです。どっちがいいとかではなく、ただ伝える方法が違うだけで、異なる伝え方があるんだなって、考えることが大切だと思います。
――円滑なコミュニケーションをするために、何か簡単に覚えられるコツはありますか。
井上:日本語のレベルが初級の人と話す時には、「はっきり」「最後まで」「短く」言う、“ハサミの法則”があります。また、漢字の熟語とかカタカナ語、丁寧すぎる表現、あとは擬音語・擬態語というのも初級の教科書にはあまり出てきません。例えば「飲食」ではなく「食べます」「飲みます」のような大和言葉で言い換えるとわかりやすいです。
――例題はありますか?
井上:市役所の窓口とかで「こちらの申請書類にご記入いただいてもよろしいでしょうか」と丁寧にお願いすることがあると思います。でも、実はこの言い方はすごく難しいんです。もし、あまり日本語ができない方に言うとしたら、どう言ったらいいと思いますか?
――「ここに書いてください」じゃ短すぎますか…
井上:それでいいです。それが一番わかりやすいです。「申請書類」や「記入」などの漢字の熟語はすごく難しいので、もう実物があるのなら、それを見せて「この紙」とか「ここに」というとわかりやすいです。「記入して」は「書いて」と大和言葉にします。そして「いただけますか」とか「いただいてもよろしいでしょうか」は、結構回りくどいですよね。お願いをする場合は指示を明確にして、はっきり言うのが、わかりやすいです。
――こういうお話しを聞いたり、経験したりできる場所とか機会はありますか。
井上:企業や団体・個人の方向けに「やさしい日本語」の講座を行っています。何人か集まっていただいたら出張しますので、ぜひお問い合わせください。
また。国内で外国の人と話してみたいなと思っても以外と機会がないと思うで、やさしい日本語をつかって国際交流する機会も作っていますので、ぜひこちらにも遊びに来ていただきたいです。
――ぜひ、その時には案内を送ってください。絶対に参加したいと思います。
井上:お待ちしています。
伝わらないかも…
最初から諦めない!
――私はドッグカウンセラーとして飼い主の方々とお話しをするとき、犬にこちら(人間側)の意思を伝えるには言葉そのものよりも、仕草や表情、声の調子が大切といつも伝えています。異種コミュニケーションですね。恵さんが専門とする異文化コミュニケーションにおいて、このノンバーバルな部分の重要性はどうでしょう。
井上:日本人は「聞いていますよ」という意味で、たくさん「うんうん」「はいはい」とあいづちをしますね。日本人はあいづちをしないと気持ち悪いぐらい、あいづちをするんですが、あいづちをあまりしない文化の人は、これを「OK」という意味だと誤解してしまったり、逆に日本人はあいづちをしてもらわないと、聞いてもらえていないと勘違いしてしまったりします。
ノンバーバルな部分においても、こちらの当たり前が、相手の当たり前だと思わないことが大切です。
――それは犬と人の関係でも同じですね。人間は犬に何かを伝えたい時、話し過ぎる傾向にあると思います。「これはダメだと言ったでしょー」「いつも注意してるよね」などと言っても、犬に真意は伝わらないですよね。逆に「注目されている!」「褒められている!」と勘違いすることもあります。でも、ルールやマナーを教えてあげることは、人間社会で人と犬がともに生きていくためには重要ですから、伝え方を変えるというのがポイントになります。
井上:同じですね。一筋縄では伝えられない相手に、なんとか工夫して伝えようという姿勢の大切さは同じだと思います。同列に並べていいか、わかりませんが「犬だから」とか「赤ちゃんだから」とか「日本語ができない外国人だから」と、どうせ何を言ってもわからないでしょと、最初から伝えることを諦めてしまうことがあると思います。
でも、言葉を言い換えたり、写真やイラストを使ったり、表情やジャスチャーで伝えようとしたり、コツを知った上で色々工夫しながら、目の前の相手に丁寧に向き合う姿勢が大切なのは一緒だなって思いますね。
皆と同じは苦しい?
それなら視野を広げよう
――子育て中ですよね。
井上:4歳の可愛い可愛い子供がいます。
――勉強やセミナーの準備など、自分時間をなかなか作れないとか、もやもやした時などはどうやって、気持ちを整えていますか。
井上:そもそも、なんでこの仕事をしているのか、この活動をしているのかというのを一旦改めて、思い出すようにしています。日本人と話したくて日本語を勉強している外国の人のことをもっと知ってもらいたいとか、皆と同じでいることを苦しいと思っている昔の私のような人がいるなら、国際交流みたいな色んな人と出会える機会を通して、視野を広げてほしいとか、そういう、気持ちを思い出すようにしています。
――今、ネックレスのお礼をお父様に伝えるとしたら、なんて伝えたいですか。
井上:アメリカに行くっていう時に、背中を押してくれなかったら今の自分はないと思います。そうやって背中を押してくれて、お守りも持たせてくれて、やりたいことを応援してくれたことに本当に感謝しています。「ありがとう」と言いたいです。
――“旅の神様”のネックレスは海外との架け橋となる、未来の女神様の首にかけられていたんですね。
井上:ありがとうございます。なんだか恥ずかしい(笑)
――ここでなにか、お好きな曲をおかけしましょうか。
井上:SOTTE BOSSEの『世界に一つだけの花』をお願いします(楽曲はYouTubeへリンクされています)。
“やさしい世界”を
広めていきたい
――いま探している宝物はありますか。
井上:未来に溢れている子供たちみんなが宝物だなって思っています。日本の子も外国ルーツの子も、一人一人がノビノビ生きられるように、“やさしい日本語”の考え方に根差した“やさしい世界”を広めていきたいです。
――恵さんらしい“やさしい愛”に溢れた言葉でした。今日はお話しを聞かせていただいたお礼にもう1杯いかがでしょうか。
井上:いいんですか…じゃあ、もう1杯お願いします。
――では。ごゆっくりお過ごしくださいませ。
井上:もうちょっとノンビリしていきます。
恵さんに聞いたこと番外編!
――今のライフスタイルの好きなところや気に入っているところは?
井上:子供がいる生活! “今できる小さな一歩を着実にやっていこう”という考えも、子どもが教えてくれました。子どもから学ぶことは多いです。
――世の中にもっとあってほしいものと、減ってほしいものは?
井上:子供の自殺。子供の世界は狭いから、今いる場所が合わなかったり、辛かったりすると、人生全てが終わったように感じてしまうかもしれない。私もそうでした。でも、世界のどこかに合う場所はあるはず。生き延びてほしい。子供たちがもっと、他の年代の人や障害がある人、外国の人など、多様な人達と出会う機会や、相手も自分も大切に思うやさしい気持ちを育む教育が、もっとあるといいと思います。
井上恵さんの『湘南やさしい日本語プロジェクト』
インタビュー・文:白田祐子(しらたゆうこ)
番組サイト⇒『犬とあなたと珈琲と。』
Instagram:@doggy_uri
@ル・ブラン湘南
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。2014年より神奈川県動物愛護推進員、湘南ビジョン大学講師。2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演中。