犬とあなたと珈琲と。Vol.85 高齢者とペット。最期まで一緒に…
聞逃し配信中(音楽は全てダミーです)
収録:レディオ湘南
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳、愛犬のうり。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は常連客のゆきさん(株式会社イヌと暮らす代表取締役)。一歩一歩、ゆっくりと歩むおじいさん。その横には一頭のわんこ。なんともほのぼのとした光景です。でも、その幸せな暮らしにも近い将来暗雲が立ち込めるかもしれません。体力減退や体調不良、認知機能の低下。高齢者と伴侶動物の抱える問題は右肩上がりです。適切なお世話ができず悲惨な環境に耐える犬猫たち。施設入所で置き去りにされる犬猫たち。動物関係者だけの対応に限界をむかえる前に社会で取り組めることもあるはず。今回も保護活動をしながらトリミングサロンを経営しているゆきさんと、人と犬の関わりを研究しているドッグカウンセラーの白田祐子がそれぞれの視点から考えていきます。
祐子 こんにちは。ゆきちゃん、いつもありがとうございます。
ゆき こんにちわ、祐子さん。今日はアサヒ君と来ました~。
祐子 アサヒ君。久しぶりー。うら君と見分けがつかないんだよねー。
ゆき アサヒ君は他の預かりさんのお家にいるんですが、うちにいるうら君と兄弟。そっくりですよね。
祐子 本当にそっくり。二頭とも早く「ずっと家族」が見つかるといいねー。
ゆき 7月31日で1歳になるのでそれまでには…
*中山ゆきさんが所属する保護団体の譲渡会の情報は「PAK」(Paws Adoption かながわ)
目次
医療ケアが必要な
独居高齢者が子犬を購入
ゆき 祐子さん…聞いてください。ちょっと深刻な相談なんですけど。とある人からの連絡でトリミングをしたワンちゃんなんですけど、飼い主さんは医療ケアが必要な一人暮らしのご高齢の方。わんこは生後半年、元気盛りで超かわいい。でも、ご本人はお世話もちょっとままならない状態なので…「子犬はどうされたんですか?」って聞いたら、自宅に来ていただいているヘルパーさんに一緒に買いに行ってもらったという話なんです…。
祐子 えー…。それは…なかなかだね…わんこはどんな感じ?
ゆき わんこはベッドの横に置いてあるサークル内で過ごしている感じです。トイレシートをびっしり敷いて。サークルから出すとイタズラするからって言ってましたね。実際に出してみたら走り回って捕まらないんですよね
祐子 閉じ込められていたんだから、それは大興奮だもんね。イタズラも、何も教えてもらっていなければ「いい」も「悪い」もわからない状態。お散歩は?
ゆき 小型犬なんですけど、飼い主さんのご様子だと難しいだろうと思います。でも飼い主さんは「お散歩も必要ですよね」って「これからは少しずつ行ってみたい」とのことでした。
祐子 とはいえ、現状では…
ゆき 難しそうですね…。
ペットは高齢者に
良い影響を与えるけれど…
ゆき それにしてもこれって、「犬は高齢の方にいい影響を与える説」のアレなんでしょうか…。
祐子 あの説ね。ペットの存在が高齢者の心身にとてもいい影響を与えるっていうのは、もう有名な話で、私も20年ほど前からアニマルセラピーで高齢者の施設を回っているから、その効果は実感できるんだけど、ちょっとキャッチコピーだけが独り歩きしている印象かなぁ…。たとえば、犬を飼っていない高齢者より、飼っている高齢者の方が病院に行く回数が少なくて、入院や術後の回復が早いとかイキイキとしているとか。そういうのは、お世話を通じて「規則正しい生活」を送れたり、朝夕の「お散歩タイム」が運動機能を高めたり、社会交流の場となるから。と、いうのが考察の結果。
あるいは、ペットが話し相手や心の支えとなって幸福感が高まるというのも、お互いの心が通じ合うような関係になっているからであって、心が通じ合う関係になるには、もちろんしつけも必要。特に犬はストレスが溜まると吠えたり、暴れたり「ひゃー困った~」っていう状態になるから、そうなれば癒しの存在がストレスの原因にもなってしまう。
ゆき そうなっちゃうと、人も犬も悲劇ですね
祐子 「ペットが健康寿命を延ばす」っていうのは、飼えばそれで達成する訳じゃないってことを、マスコミも、もう少し正確に表現してもらいたいと思うな。ヘルパーさんは犬のお世話や散歩は業務外だし、ちゃんと犬を扱えるドッグシッターを活用すべきだけど、これから毎日ずーっとって言うのは現実的じゃないから、人と犬の幸せのために「環境整備」と「運動」と「ルール作り」が必要。私も一緒にその方のところに行ってみようかな。
ゆき そうしてもらえると助かります。私は月に一度トリミングで見守れたらと思っています。大きな問題になる前にプロが介入しないといけないですね。
万が一のとき
ペットをどうするか
祐子 施設に入ることになって犬猫の行き場がなくなって、そこではじめて「どうしよう」って、在宅ケアをしている方々から保護団体や保健所に連絡が入る。飼い主さんはもう自分でなにかする力はその時にはないんだよね。そういう案件はわたしもゆきちゃんも右肩あがりで待ったなしの状態なのは実感しているよね。
ゆき はい。待ったなしですね。施設入所だけじゃなくて入院するとか、家にいてもケガをして動けないとか、体調が悪いとか、突然亡くなる場合もある。そういうとき、動物をどうするのか…
祐子 そういった不安は高齢者に限らず、誰しもが持つものだと思うけど、問題はその不安を解消する術がない、あるいはとられていないっていうことだよね。
ゆき 悪化する前にできる解決策ってあるはずですよね。高齢者とペットの関係は「いいところ」と「問題」の両方あるのはわかっていて、保護団体は「飼わない選択」だけを強いているように思われがちですが、それだけではないんですよね。私自身、できればいくつになっても「ずっとそばにいてほしい」って思ってるので、正直「65歳以上は飼えません」は犬好きにはきびしい!。でも、高齢者とペット問題は深刻で…
祐子 うん。同感。65歳なんてあっという間!私もずーっと犬と一緒にいたい。でも、高齢者とペットの問題はすでに社会問題化していて、明日は我が身。だからこそ、これからは行政一体の大きな取り組みが必要なんじゃないかなって思うの。
ゆき どんなことがありますか?聞きたいです。
音楽:Fujii Kaze『Just the Two of Us』(楽曲はYouTubeにリンクされています)
これからは行政一体の
取り組みが必要
①高齢者向け
相談窓口の一本化
ゆき 行政一体の取り組み…。
祐子 そう。たとえば、まずは高齢者が直面している「ペットに関するお悩み」を気軽に相談できる「窓口」作りとか…
ゆき 大切。賛成です。相談のハードルを下げて「ちょっと聞いてみたい」って感じの窓口。何らかのサポート体制がある社会が当たり前になるというのがいいと思います。
祐子 飼い主自身だけじゃなくて、飼育困難な状態を身近で確認している人も相談できるといい
ゆき 社会福祉関係者の方の情報とか絶対に必要ですよね。飼い主が心配していなくても、周りの人たちが見ていて心配な状況って多々ありますね。
祐子 あるよね。一大事になる前に専門家が状況を把握して、予防することも期待ができる
ゆき 表面化したときには重大な問題になっている。それを避けるためですよね。
②飼い続けるための
支援へ繋げる
祐子 二つ目は様々なセクションの人たちと連携して、たとえば、ペットのお世話の代行とか、飼い主が自宅で飼い続けられる支援へ繋げられる仕組みづくりをする。
ゆき いいですね。「飼い続けられるように支援する」って、飼い主さんにとってもそうだし、長く共に暮らしてきた、たとえば、高齢の犬猫にとってもすごくいい。
祐子 やっぱり、ずっと一緒にいたいもんね。
③新たな居場所に繋げる
仕組みづくり
祐子 そして、最後は万が一のとき、新しい飼い主や新たな居場所に繋げる仕組み作りをすること。今は保護団体が個別に対応しているけど、いつかは追いつかなくなる。これは動物愛護センターのような大きな力と大きな箱が必要。ここまで言っちゃうと課題が壮大になっちゃうけど、「こういう時はこういう手続きが必要で、今後はこういう流れになります」っていう「フロー」を作成して共有するだけでも、今よりずっと「さぁ、困った!」からの動きがスムーズになるんじゃないかな。
ゆき 本当にそうですね。保護団体の対応としても、どこの協力をどの時点で仰げばいいのか…ってバタバタしちゃうから、フローを確立して保健所や社会福祉関係者・医療関係者と共有できれば負担が減りスムーズです。行政、民間サービスと連携してサポート体制を整えること。あと、高齢者の飼っている犬猫は高齢の子が多くて、持病があるとか、大きな腫瘍があるのに治療をしていないとか、新しい飼い主を探すのが難しいって子が多いんです。譲渡できない犬猫が増えてしまうとお世話する人も必要だし、医療費も必要だし…
祐子 それは保護団体として死活問題!
ゆき そうなんです。だから、神奈川県動物愛護センターには、そこで生涯を終えられる「老犬ホーム」を建設してもらいたい!
祐子 ねっ。犬猫殺処分ゼロを10年以上更新している神奈川県動物愛護センター。すでに「老猫ホーム」的になっているけど、もう思い切って「老犬ホームもお願いします」だね
ゆき はい。お願いします!
飼わない選択をして
マイペースで犬猫と触れ合う
ゆき 高齢者とペットの問題。課題解決に向けた3つの提案いいですね。「飼い続けるための支援」っていうのは絶対に必要だし、万が一のときのシステムも…。でも、本当なら入り口の課題も解決したいですね。今回のケースだって「ヘルパーさんと一緒に買いに行ってもらった」とか、子犬を販売したペットショップとか…
祐子 本当だよね。ペットショップに行けば誰でも買えちゃうんだよね。「飼わない選択」をするのも犬への愛情のひとつだけど、犬を可愛がりたい気持ちもわかる。だから、その気持ちを埋めるために、たとえば「動物保護団体でボランティアをする」っていう選択肢があるといいなって思うんだけど…受け入れるのが大変かな…
ゆき いえ、自分のペースで犬と関わることができるから、PAKのボランティアには高齢の方もいらっしゃいます。
祐子 愛でるだけとか、今日は調子いいからお世話ができるとか、可愛い子に会いたいとか。そんなご都合主義は一緒に暮らす犬には通用しないけど、ボランティアなら実現可能。さっきの「犬は高齢の方にいい影響を与える説」も叶えられるじゃないかな。
ゆき そうですよね。犬は好きだけど、会社を定年してこれからは旅行にも行きたいし、趣味も楽しみたいからって、週2くらいのペースでお散歩ボラさんをしてくれている方とか、イベントのときに犬のお世話をしながら愛でている白髪の紳士とか。自分の体力がないときは来ない。譲渡会に来て愛でるみたいな(笑)
祐子 みんなニコニコしてね…。そうか、イベントメインのボランティアもいいね。「譲渡会は愛でる場所」。最高(笑)
ゆき 本郷台のお祭りに参加したときには、ずっと保護犬たちの横に座っている、おばあちゃんいましたね。最初から最後まで愛でていて「もう終わりですよー」って声かけて。「今日はお祭りに犬を見に行こう」って感じで来たんじゃないかなあ。
祐子 いいねー。「今日は犬を見に行こう」って。そのフレーズ使えるかもしれない!
最期はやっぱり
任せられる人へ託す
祐子 譲渡会で犬を愛でる。そして家族がその姿を見て「私たちが犬と暮らして、おばあちゃんのところに遊びにいってあげよう!」とか、高齢者発信じゃなくて、家族発信で動物が関わってくれれば、もっといいかなー。よく親に犬をプレゼントする人がいるけど、そうじゃなくて、自分たちの犬で自分たちがしっかり面倒をみる。で、可愛がったり愛でたり、いいところだけはおばあちゃん、おじいちゃんと共有するとか、
ゆき すごくいいアイデアですねー。家族発信でペットを通じて世代を超えて心が通じるっていいですよねー。たまにはおばあちゃん、おじいちゃんに預けたりして
祐子 あーいい!幸せのループ!
ゆき 「誰かが看取ってくれる」、犬猫と暮らすことは、そこまで考えて、責任を持たなくちゃいけないですね。うちにいる14歳の猫のミミちゃんは、もともとはトリミングのお客様の猫で、私が月1でお世話をしに行っていたんですけど、その時、娘も一緒に連れて行っていたんです。そしたら、おばあちゃんが娘に「おばあちゃんに何かあったら猫の面倒をみてね」って、お菓子をくれてました。毎回山ほど。それで、今、娘は「おばあちゃんにもらったどんなものより、一番嬉しい」って、その猫のミミちゃんを可愛がっていますね。そういう風に思ってるんだって、聞いたときは驚きましたね。
祐子 えー、感動秘話―。いい子だねー。自分も一緒にお世話して、おばあちゃんにも「任せるよ」って言われて、そういう時間経過が愛をより熟成させていったのかな。
ゆき うん。とっても大事な時間を一緒に過ごせましたね。犬猫ちゃんはすぐには懐かないし、懐くまでは、それはそれは時間も手間も必要です。だから…今はイベントも増えているし、やっぱり譲渡会巡りがおススメですね。
音楽:Disney Sing『Colors of the Wind』(楽曲はYouTubeにリンクされています)
どうすることが
自分と動物がハッピーか
祐子 さて、明日は我が身の高齢者とペットの問題。高齢者に限らずだけどね…「飼う選択」「飼わない選択」。それから「飼い続ける選択」と、終活における「手放す選択」。それぞれ、どうすると自分自身も動物もハッピーでいられるか。飼い主目線、人目線だけではなくて、動物目線で判断していくことも大切。それを理解してもらえると、ヘルパーさんが「一緒に犬を買いに行く」なんてことは、なくなるのかなぁと思う。そんなときに役立つのが『動物福祉』の概念なんだけど、その話をするとさらにさらに長くなっちゃうから…(笑)
ゆき 『動物の福祉』みんなに理解してもらいたいですね。
祐子 内容はちょっと難しいから、みんなで共有できる、わかりやすいチェックシートを作ろうか。
ゆき うんうん。いいですね。作りましょう!
祐子 時間はまだ大丈夫?そういえば、アサヒ君は…?
ゆき ちゃんと静かに待っていられるようになったんですよー。とってもいい子なので、みんな譲渡会に会いにきてほしいです。
番組サイト『犬とあなたと珈琲と。』
保護犬猫支援店/トリミングサロン『イヌと暮らす』
放送構成と文:白田祐子(しらたゆうこ)
うり店長のInstagram
ル・ブラン湘南のInstagram
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合い、犬専門雑誌の監修や執筆も行う。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。