犬とあなたと珈琲と。Vol.69 犬はなぜ吠える?
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳。愛犬の“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
お客様は常連客のゆきさん(株式会社イヌと暮らす代表取締役)。今回は「犬はなぜ吠える」がテーマです。犬が吠えるのは本能でしょうか?もともと吠えない祖先が人間とコミュニケーションをとるために吠えるようになった…そう捉えると犬の行動が少し違ってみえるのではないでしょうか。犬の吠えは感情のバロメーターです。正しい状況判断をしながら、その場に相応しい行動をとれるよう「行動のバリエーション」が増えていけば吠えは減っていくはず。今回も、そんな色々を保護活動をしながらトリミングサロンを経営しているゆきさんと、人と犬の関係を研究しているドッグカウンセラーの白田祐子がそれぞれの目線でお話しします。
祐子 いらっしゃいませ。ゆきちゃん、いつもありがとうございます。
ゆき こんにちわ、祐子さん。今日はまたまたみみちゃんと来ました~。
祐子 はーい。久しぶりです。枕に手足が生えたようなぽっちゃり柴さんだったのに、最近はすっかりスリムになってちょいポチャ位になったね。
ゆき 枕に手足生えていましたね(笑)。そうなんです4キロは痩せましたね。柴犬なのにほぼ20キロあったので「ダイエット成功!」と言いたいところなんですが…、環境の変化によるストレスから「食べられない」っていう「痩せ」もあって複雑です…。でも、今はすごく調子良さそうなので、結果的には良かったかな。
祐子 流石にからだ重そうだったもんね。みみちゃんはもともとご高齢の方と暮らしていたんだよね。それを起点にちょっと転々としながら11歳でしたか…保護団体に引き取られて…。みみちゃん頑張った!これからは安心して、ゆきちゃんのところにずっといようね。
ゆき そうですね。じゃあ、いつものカフェオレお願いしまーす。
目次
犬は吠え声は
ときに社会問題へ発展
ゆき 祐子さんは犬の吠え声にどの位我慢できますか? 結構気になります?
祐子 犬の吠え声…。声の種類やシチュエーションにもよるかな。
例えば、ドッグランとかで犬同士が遊んでいて、ワンワン嬉しそうに吠えている時は、むしろ自分も「仲間に入りたい」ってワクワクするけど、何かを必死に伝えるような声が聞こえてきたら、「あれ?どうしたんだろう」「大丈夫かな?」って気になる沸点が低くなるかも。
ゆき なるほどねー。最近、吠えること自体が「問題行動」「騒音」って捉えられることが多いなって感じているところがあって…他にも…なんていうか…モヤモヤ案件ですね。
祐子 犬の吠え声は「騒音トラブル」として大きな問題に発展することも少なくないけど、私は「音」じゃなくて「声」としてキャッチするから、その心理背景で許せる幅が違うかもしれない。警戒や威嚇なのか、苦痛や興奮、緊張なのか、それとも要求なのか。聞き分けちゃうのは職業病かもしれないけど。
ゆき 「音」じゃなくて「声」!ゆうこさん語録ですね。納得の答えが聞けそう。
祐子 納得の答え?「吠え声」でなにかあったの? モヤモヤ案件になるような。
ゆき 家族で「犬はどうして吠えるのか」っていう会話をしていたときに、娘のお友達が「本能だからじゃない」って言ったんですよね。その時は「そうだよね」って思ったんだけど、後から考えたら「本当にそうかな?」って。
もし、本能なら「犬は吠えて当たり前」って、もっと私たちは寛容的になってもいいのではって。
それで「うーん?」って思っていたら、「犬が吠えてうるさいって苦情が入ったので、引っ越しすることにしました」っていうお客さんがいて…それでちょっとモヤモヤしているんですよね。
祐子 なるほどねー。これはまた、大きな社会問題に対するモヤモヤだね。
ゆき 社会問題か…確かに…。
犬が吠えるのは
本能ではない
ゆき 祐子さんはどう思いますか?
祐子 まず思ったのは、犬が吠えるのは「本能」じゃなくて「特性」だよね。「習性」って言ってもいいけど。
ゆき えーっ。特性ですか?
祐子 うん。だって犬の祖先にあたるオオカミは吠えないでしょ。
ゆき 確かに!オオカミは吠えないって聞いたことあります。そうですね。でも「本能」と「特性」って違うんですか?なんとなくイメージはできるけど、ちょっと難しいですね。
祐子 「本能」は動物が生まれる前から遺伝子レベルで持っているもの、身についているものかな。例えば、命を守るための行動はあとから身に付けるんじゃ遅い。だから、遺伝子レベルで最初から組み込まれている。危険から身を守るための「〇〇本能」。
ゆき 「防衛本能」とか「逃走本能」。
祐子 そうそう。あと種の保存や子孫を残すための
ゆき 「生殖本能」
祐子 うん。それから狩りをするのに必要な「探索本能」とか、犬のように群れで暮らす社会的な動物には、群れを平和に保ったり、群れの一員として存在したいという「社会的本能」というのもあるみたいね。
ゆき なんとなく「本能」わかってきました。
祐子 一方で「習性」ってなると、後から身に付いた行動や癖みたいなもの。特に、その中でも同じ種類の動物に共通して見られる「一定の行動パターン」を「特性」って呼ぶことが多いかな。
ゆき なるほどー。後から身についた癖かぁ。そうやって考えると、もしかすると犬の吠える行動は人間が影響している?
祐子 そういうことだよね。その昔、人と暮らし始めた犬は犬特有のボディランゲージで意思や気持ちを人間に伝えても、全然気づいてもらえなかったんだろうね。
それでどうすれば「気付いてもらえるだろう」って、色々なことを試しているうちに、声を出してみたら、或いは偶然声が出たら注目されて、「これか!」って。
それに気づいた犬は吠えることが多くなって、周りの犬も真似をしていった。犬は「模倣する動物」だからね。犬と人の長い歴史や犬の学習理論と照らし合わせすると、こういうストーリーが妥当だよね。
ゆき 面白い!まさかの「吠える」が、人とコミュニケーションをとるための方法として定着していったとは。人とコミュニケーションをとろうと必死になってくれたっていうのも感激ですね。
祐子 やっぱり犬好きの感想だ(笑)
いいことがあると
繰り返され定着する
祐子 「吠える」が定着した背景には犬自身の「得」になること、嬉しい気持ちとか「ラッキー!」って思えることがあったからなんだよね。
犬の行動は感情との結びつきが大きいから、「いいこと」があればその行動は強化されていく。
そう言うと、ちょっと味気ない気もするけど、犬の感じる「いいこと」ってさまざまだよね。例えば、吠えることで人間に危険を知らせられて、それで「教えてくれてありがとう」って褒められたら「嬉しい」って感じる。それで褒められるために繰り返す。
褒められたり、人間の笑顔を見たりしたいから「その行動を繰り返す」って、なんて「犬って愛おしい存在なんだろう」って、結局ゆきちゃんと同じ結論に至ちゃうんだけど…。
ゆき はい(笑)
祐子 あれ。今の声みみちゃん?
ゆき そうなんです。さっきから足元でモゾモゾしていて、いつもは寝る前にしか「何かちょうだい」って言ってこないんですけど。何もたべてないよ。
祐子 あらら、なかなかのお喋りさん。そんな声出すんだね。かわいい
正しい判断力と
行動のバリエーションが大切
祐子 犬の「吠え」は犬種性もあるよね。
でも、基本的にはそれぞれの犬が産まれてから大人になるまでの間に、沢山の要因が影響し合って、どれだけ吠えるようになるかが決まっていく。
だから、色々な経験を通して「行動のバリエーション」を増やしていけば、シチュエーションごとに違うコミュニケーション方法を取ることができて、結果「吠える必要はない」って、過剰に吠えることはなくなる。
ゆき なるほど「行動のバリエーション」かぁ。
祐子 例えば、手足を使って音で知らせることもあれば、何か物を持ってくるとか、目の前にサッとお座りするとか、体当たりしてくるとか。
ゆき 確かに。沢山ある。吠えていなくても「なんか言われている気がする」っていうのは、そういうことですね。
祐子 なんだか視線を感じて振り向いたら、ジッと見つめられていたりね。
ゆき はい。あるあるですね。
祐子 だから、人間側が気付いてあげられる。そういう能力も必要だよね。それから、正しく状況判断ができないと、それぞれに適した行動をとれないから、過剰な警戒心や恐怖心を持たずに落ち着いていられる穏やかな精神状態も必要。
ゆき 吠えて伝えるという術を知っているのに「違う方法」を取れるとか、過剰に反応しないで「落ち着いていられる」っていうのは、お互いにとてもいいことですね。
祐子 それを教えてあげることが「犬のしつけ」だと思うの。落ち着いていられることと、その場にあった行動をとれること。それさえ獲得できれば、ヒトも犬も社会もハッピーに過ごせるんじゃないかな。
ゆき 本当に大事なこと。犬のしつけの基本…今度その話も聞きたいです。
分離不安も
時間をかけて改善へ
祐子 みみちゃん、まだ、もじょもじょ言っているけど。こういう話声みたいのとか、「ウーッ」って唸ったり、「キャンキャン」って鳴いたり、うりみたいに「クーン」って鼻を鳴らすとか。犬の声には色々なバリエーションがあるよね。
ゆきちゃんのお店トリミングサロン『イヌと暮らす』に来るワンコたちはどうですか?じっと静かにしているワンコばかりじゃないでしょ?
ゆき それはもう…そうですね。
祐子 例えばどんなシーンがで声を出すことが多いの。
ゆき 一番はお母さんを呼んでいる感じですね。「ママ―」「ワンワン」って。
祐子 別れた直後とか?
ゆき はい…あとは、シャンプー中もブロー中もずっと吠えている子いますね。もう分離不安ですよね。「シャンプーが嫌い」とか「ブローが嫌い」とかなら、その作業をやめると吠え止みますけど、分離不安の子には「もう少し待とうね」って、声を掛けても吠え止むことはないですよね。
だから、みんな注意するわけでも、怒るわけでもなく、諦めるのを待つ感じで「吠えっぱなし」のスタイルでずっとやっていますね。いいのかどうかわかりませんけど。
祐子 いやいや、それしかないよね。代わりに抱いてあげたり、遊んであげたりすると静かになる子もいるけど、重度の場合は完全に聴く耳を持てない状態だからね。
ゆき 周りが全然見えなくなっちゃうんですよね。
祐子 基本的に分離不安は「他人の介入による対処や改善」って無理に等しいから、家族で協力して少しずつ段階を踏みながら改善していくしかないんだよね。
犬は待つことが
できる動物
祐子 トリミングサロンはしかるべく作業を確実に手際よく終えるのが目的だしね。
ゆき そうなんですよ。他の犬を見て吠えるなら、見えないようにするとか気を逸らすとか、なんとか方法を考えながらやっているんですけど、やりようがない場合は仕方ないのかなって。でも、ママを呼んでいるときに「ママはいないね」って、確認させてあげるとおさまる場合もあるかな。
祐子 周囲を確認させてあげることって、どんな場所でも大切なポイントだよね。だから『TAKARA CAFÉ』では、犬たちに自由に歩いてもらっているんだけど、家族と離れるなら、ゆきちゃんがするように「ここにはいないよ」って確認させてあげることで諦めもつく。
ただね、必ず迎えに来てくれるという信頼関係があれば、余程のことがない限りちゃんと待っていられるんだよね。「犬は待つことのできる動物」だから。
分離不安の相談は割と多いけど、的確な方法と接し方でほぼ改善されていくので、困っている人がいたら、大きなトラブルになる前に相談してもらいたいな。
ゆき これは心強い!犬は待つことのできる動物。すごい素敵!
「吠える」は
感情のバロメーター
ゆき 結局、「吠え」と一言で言っても、その時の条件とか環境とか感情とか、ひとまとめにはできないってことですよね。人間側の受け止め方も大きいですしね。犬を飼っている人でさえ、個人差あるし、すごく気にする人もいる。
祐子 本当だよね。犬同士が「遊ぼうよ!」って吠えただけで「ダメ」って叱る人もいるし、「怖い、怖い」って引き離したり。そういう間違った対応が続くと、犬を見るだけで吠える犬になってしまう。そういう傾向はすごく高いかな。
ゆき 私たち人間の対応の結果なんですね。みんな、パピーレッスンで吠えない犬の育て方 なんていうのを学ぶのもいいかもしれない。
祐子 できれば犬を迎える前から勉強しておくといいよね。嬉しくて吠えるのは人の笑い声みたいなものだし、遠吠えのような声もオオカミから受け継いだオリジナルな行動だし。
ゆき わたしは遠吠え聞くのが大好き!なんだか笑っちゃいますよね。うちに来るお客さんのワンちゃんに母親と子供2頭っていうトイプードルの親子がいるんですけど、母犬が遠吠えしたら子供2頭が続くみたいなことしていますね(笑)
祐子 えー面白い、母犬が指揮者の合唱団みたいだね。そういう時々の声出しとか、「誰か来たぞ!ワンワン」って合図をくれる程度なら「吠えたっていいじゃない」って私は思うけどね。
ただ、いつまでも吠え続けるとか、ほんのちょっとしたことで反応するようなら、それは犬が可哀想なので絶対に対策をとってもらいたいけど。
ゆき なんで吠え続けているのか。その意味を飼い主さんが分からないとしたら、それは専門家に相談するサインかもしれないですね。
祐子 そう。「吠える」は感情のバロメーターだから。
ゆき 吠えるは感情のバロメーター!
音楽: Michael Bublé『Home』(楽曲はYouTubeにリンクされています)
ブリーダー・ショップ
飼い主が役割を果たす未来へ
祐子 吠え問題を予防するには「ブリーダー」「ペットショップ」、そして犬を家族に迎えるわたし達、「飼い主」がそれぞれ責任をもって、積極的な役割を果たすことが大事。まぁ言うのは簡単、実際は永遠の課題だね。
ゆき そうですね。飼い主がそれぞれ責任をもって。今はそういう飼い主さんがとっても増えていると感じています。
祐子 周囲に迷惑をかけないように暮らすことは、飼い主の義務でもある。
吠え声は近隣住民に健康被害を与えてしまうこともあるから、日頃から周辺住民とコミュニケーションを取っておくことも大切。でも、あまり神経質になると、かえって犬の吠え行動を悪化させてしまうこともあるから、1人で悩まないでほしいよね。それで悲しい結果になることもあるから。
ゆき うん。そうですね…。
祐子 さて、時間はまだ大丈夫ですか。そういえば、みみちゃん静かになったね。
ゆき はい。諦めて寝ていますね。きっと、もうおねだりしていたことも忘れているんじゃないかと。帰ったらご飯食べて、おやつも食べるからそれで充分です。
祐子 ちゃんと我慢できて偉かった。というのは、人間側の方もそうなんだけどね。
ゆき そう。ついつい可愛い顏に騙されてあげちゃうんですよね。まぁ…私ですけど。
祐子 私も同罪!さて、モヤモヤの答えは見つからなかったかもしれないけど、今日も楽しい犬談義のお礼にもう1杯いかがですか。
ゆき はい、いただきます。いつも、ありがとうございます。
番組サイト『犬とあなたと珈琲と。』
保護犬猫支援店/トリミングサロン『イヌと暮らす』
放送構成と文:白田祐子(しらたゆうこ)
うり店長のInstagram
ル・ブラン湘南のInstagram
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合い、犬専門雑誌の監修や執筆も行う。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー、他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。