犬とあなたと珈琲と。Vol.67 犬に関わる仕事って面白い
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳。愛犬の“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
お客様は常連客のゆきさん(株式会社イヌと暮らす代表取締役)。今回は「犬に関わる仕事」をテーマに、トリマーとして働く楽しさや、これから目指す方々へのメッセージを伺いました。さらに、どうしてドッグカウンセラーになったの?という私への質問にもお答えします。一頭の犬にかける平均単価が上昇し、ペット関連事業の裾野が広がり続ける時代。日本の犬文化が盛り上がり、犬の地位が向上する未来がくればハッピー!そんな色々を、保護活動をしながらトリミングサロンを経営しているゆきさんと、人と犬の関係を研究しているドッグカウンセラーの白田祐子がそれぞれの目線でお話しします。
ゆき こんにちわ、祐子さん。今日はイブちゃんと来ましたー。うりちゃんよろしくねー。
祐子 1日に葉山で開催した『お寺でわんにゃん縁結び』にも参加していた子だね。
ゆき はい。ちんとマルチーズとシーズー、純血種ミックスの3歳の女の子なので、すぐに人気者になったんですけど、なかなか決まらなかったですねー。…と思っていたら、『わんにゃん縁結び』でお見合いが成功してトライアルが決定しました!
祐子 わぁ!おめでとー。そのまま幸せに暮らせるといいねー。頑張って行ってくるんだよ。イブちゃん。
ゆき はい。もうきっと大丈夫です。じゃあ、いつものカフェオレお願いしまーす。
目次
もこもこ冬毛に向けて
秋は準備が大切
ゆき もう10月も半ばですけど、やっと長い夏も終わりましたよね。
祐子 本当に長かったね。どうですか。季節が変わって仕事での変化は何かありますか?
ゆき ありますね。夏は蒸れからくる、耳の中のかゆみとか赤味とかトラブルを抱えたワンちゃんも多かったんですけど、それが減ってきましたね。これからは毛を伸ばす子が増えてくるので、皮膚と毛の両方のケアが必要になってきます。
祐子 サマーカットからおしゃれヘアーに変身。秋はサラふわ。
ゆき そうそう。毛が伸びてくるとから絡まっちゃいますから、うちの店では炭酸泉で夏の汚れをしっかり落としてもらって、新陳代謝を高めてからトリートメントで保湿ケアをおススメしています。
祐子 人間と同じだね。ヘアカットにヘッドスパとトリートメント。ロングヘアは追加料金みたいな(笑)
ゆき はい(笑)この前、ピレネー犬が来たんですけど、冬のモコモコヘアになる前にブラシをしながらシャンプーをして、抜け毛をとにかく一層してからトリートメント。冬毛が生えやすいように準備をしておく大切な季節です。
祐子 夏前だと「これから暑くなるから」って、私たちも感覚的に色々な準備をするけど、実は秋も冬に向けて大切な季節なんだね。
ゆき そうなんです。「もう10月だから」って、最近は虫対策をやめちゃう人もいるんですけど、実際にはまだ虫がいて、今年も9月は夏と変わらないくらい暑かったじゃないですか。暑い時期が長くなっているのに9月だから10月だから「もういいかな」って、つい気が緩んじゃうみたいですね。
祐子 確かに。実際はどうなんだって皮膚感覚で判断していく必要があるんだね。さすがベテラントリマーさん。
トリマーは長時間
犬に触れる特別な仕事
祐子 ゆきちゃんはトリマーになって20年?
ゆき うーん、25年ですね。
祐子 わぁすごいね(笑)。夏休みに募集した子供たちからの質問に『犬にかかわる仕事をしたいです。どんな職業がありますか』っていうのがあったじゃない。それで、トリマーさんって、まさに多くの犬たちと関わる仕事だよなって。
うりみたいにヘアカットの必要がない犬もいるけど、たまにはプロにシャンプーしてもらってスッキリさせてあげたいとか、爪切りや耳掃除をしてもらいたいとか、人気犬種のトイプードルは絶対にトリミングが必要でしょ。
だから、犬と暮らす人にとって、トリマーさんってすごく身近な存在で、長~い長いお付き合いになる特別な仕事だなって思って。
ゆき 確かにそうですね。例えば1時間半ずっと犬を触わり続ける仕事って他にはないですよね。それも全身くまなく。
祐子 うん。確かにね。犬のマッサージの仕事も体をよく触るだろうけど、そんなに長い時間は触っていないものね。
ゆき しかも、さっき祐子さんが言ったようにトリマーは一生涯の付き合いになることが多いので、相当だと思います。
祐子 本当だね。
トリマーへの
職業選択も身近な時代
祐子 トリマーになるきっかけは色々だと思うけど『イヌと暮らす』は年間を通して研修生を受け入れているじゃない。そういう時「トリマーを目指すきっかけ」とか聞きますか?
ゆき そうですね。聞きますね。「犬が好きだから」っていうのは当たり前として、20代前半から中頃までの子は、「保護犬のTVを見て自分も力になりたいと思った」とか最近多いですね。それはうちの店がシェルター付きだからって言うのもあると思いますけど、今はトリマーへの職業選択も身近になってきたなって感じますね。いい時代だと思います。
祐子 デザインが好きとかは?
ゆき いますね。カリスマトリマーって呼ばれる人たちがいて、カリスマトリマーに憧れるっていう時代もありましたけど、数年前からは韓国の影響でかわいいカットをしたいって、デザインや美容に興味をもってくる子もいて盛り上がっていますね。
祐子 お尻をまん丸にしたり、ポメラニアンを小熊みたいにするとかね。ぬいぐるみみたいな。
ゆき そうですね。まぁ私は毛むくじゃらも可愛いって思いますけど(笑)
祐子 同感同感(笑)ゆきちゃんは大学生の時に出会った迷い犬、ワイマラナーのぶぅちゃんを引き出しに、センターに行ったときに「身寄りのない子を救うためには清潔が必要だ」って思ったことがきっかけで。トリマーと保護活動の二足の草鞋、そのスタイルはほぼ変わらずだもんね。むしろパワーアップしていて、心底尊敬あるのみです。
健康を管理するつもりで
犬を触る
祐子 トリマーさんは人間の美容師とは違って、国家試験ではないんだよね。殆どの人は専門学校で勉強するの?
ゆき はい。ライセンス取得までの期間は学校によって半年から2年って様々なんですけど、私は1年制の学校で午前中は座学で午後が実技というカリキュラムでしたね。
祐子 実技の時間がたっぷりあっていいね。美容のこと以外も勉強するんでしょう?
ゆき 私の通った学校では犬の歴史や犬種、繁殖とか訓練もそうだし、犬の骨格とか病気。それにマナー学みたいな「履歴書の書き方」や「電話の取り方」とかもあったかな。それって結構大切かなって思いますね。
祐子 なるほどね。特に「これから社会に出ます」という人には大切だし、犬の専門職と言っても犬だけを相手にするわけじゃないものね。
ゆき そこなんですよ。トリマーさんはサービス業なので、人とのコミュニケーションが苦手ってなると、ちょっと難しいかなって思います。ただ、今考えると「飼育系」の勉強がもっとあってもいいかなって思いますね。「ウンチを拾うのは当たり前!」ってところから始まってもらって。
祐子 「飼育系」の授業。犬と暮らすための基本の知識をアカデミックに学ぶ、そういう教育機関って案外ないかもしれないよね。特にトリマーさんには日常のちょっとした悩みを相談したりもするだろうし。大切。
ゆき はい。なので、私は「犬の健康管理をする」っていう感覚で働いていますね。いつもと立ち方が違うなってなったら、関節が硬くなっているのか、痛いのか、筋肉が落ちていないかって見て、気付いたことを伝えるようにしています。「余計なお世話」って思う人もいるかもしれないけど、伝えます。
祐子 まさにプロだね。
どんな職業でも
覚悟とプロ意識を持って
祐子 トリマーを目指している若者に伝えたいことってどんなこと?
ゆき どんな職業でもそうだと思いますけど、うちの店長が言っていたのは「覚悟とプロ意識を持て」ってことですね。あと体力に自信がない人には向かないということと、ご両親に専門学校のお金を払ってもらって学んだ知識だということを忘れず、すぐに辞めるようなもったいないことをしないように。って。店長らしいでしょ。
祐子 神の手を持つ店長!対応も神なんだよね。トリマーっていいよっていう推しポイントは?
ゆき 一日中犬と居られて、とことん犬と向き合える!というところでしょうか。あと、新しい犬たちと出会ってどんどん友達ができていくことが楽しいです。
祐子 ゆきちゃんのお店はいつも賑やかだもんね。これからはますます憧れの仕事になるんじゃないかな。犬の美容師トリマーさん最高!って、すごい大宣伝(笑)
ゆき ありがとうございます(笑)
家庭犬トレーナーがいない
時代からスタート
ゆき ところで「犬に関わる仕事」と言えば、祐子さんもそうですよね。さっき犬の美容専門学校のカリキュラムに「飼育系」の勉強がもっとあってもいいと思うって言いましたけど、犬を育てること、犬と暮らすための知識を教えるってことって、祐子さんの分野ですか。
祐子 はい。個人単位やセミナーなどで犬の行動学や心理学を中心に基礎知識を話したり、専門雑誌やWEBメディアに書いたりもしているのでそこが専門ですよね。飼育系…なるほど。このフレーズ発見かも。
ゆき 祐子さんはドッグカウンセラーで人間の心理士さんでもあるわけですけど、もともと心理系ですか?ドッグトレーニングとどっちが先っていうか、心理学と犬ってちょっと特別ですよね。
祐子 確かに犬の世界で心理士っていうのは珍しいというか。私は犬のトレーニングが先ですね。
ゆき じゃあ、そもそもトレーナーになったのは、何がきっかけですか?
祐子 小学生のときは毎日1人で動物園のオオカミ観察をする、ちょっとヤバい子供で、その話を高校生の時にある場所でしたら、補助犬を育成する施設で訓練士のお手伝をすることになったのね。そこが出発点。
その7-8年後位に市が管理する収容施設でお手伝いする機会があって、まだ「ボランティア」って言葉が浸透していない時代だから「お手伝いさん」なんだけど、そこで勝手に犬をトレーニングして知り合いに譲ったりしていたら、数年後に保護団体的なものができて、そこでボラトレーナーをやるようになった。という流れかな。
ゆき あー、確かにボランティアという言葉はあまりなくて、興味があっても何からはじめていいのか分からないって時代でしたよね。
犬の行動や幸せはヒト次第。
ヒトについて学びたい
ゆき そうした中から、何かを感じたんですね。
祐子 そう。他のトレーナーさんや飼い主と犬の様子を見ているうちに、だんだん人間に注目しちゃったんだよね。犬の一番近くにいるのは人間で、犬の幸せってヒト次第。犬の行動ってヒト次第。犬とうまく付き合うのもヒト次第。人間へのアプローチも大切だなって。
ゆき うーん本当に。
祐子 それなら人間を学ぼうって会社を辞めて、大学で心理学を学びながら「人の感情が犬の行動に与える影響」の研究を始めた。それが今も続いているって感じ。
ゆき なるほどすごい。「人の感情が犬の行動に影響を与える」は、祐子さんのメソッドの原点ですね。
祐子 嬉しい言葉。それはずっとブレないですね。
ゆき そこから自分で仕事をはじめるんですね。
祐子 そう。犬の行動に困っていたり、もっと愛犬のことを知りたい、もっと幸せにできるんじゃないかと思っている人のための出張トレーナーだよね。
「この人なら、このやり方が向いているだろう」とか「このレベルなら出来るだろう」って、犬と飼い主の特長を見分けて、飼い主さんにやってもらうスタイルだったんだけど、そうしたら、人も犬も一緒にバランスよく成長して一回り大きく見えてくる。
だから、ちゃんと理解して納得して「自分でやってみることってすごいな」って。それならカウンセリングだけでもいいかなって。もちろん、犬の状態によってはがっちり直接トレーニングが必要なときもあるから、それは違う人にやってもらう。私の領域ではない。そう決めたら、書いたり話したり、伝える仕事が増えてきて、今の道が作られていきましたね。
ゆき なるほど。祐子さんが他のトレーナーさんと大きく違うところですね。
ドッグトレーナーは
犬の未来を変える仕事!
ゆき じゃあ、祐子さんがトレーナーを目指す若者へ伝えたいことってなんですか。
祐子 犬と人の関係が良好になれば不幸な犬が減っていく。お行儀のいい犬が増えれば、社会での扱いも変わっていく。「犬の未来を変える仕事だよ」って伝えたいです。
ゆき 日本の犬文化を盛り上げて向上させる。そうなれば犬の未来も最高ですね。
祐子 うん。本当だね。
音楽:Macy Gray『Creep by Radiohead』(楽曲はYouTubeにリンクされています)
犬と人が幸せになる仕事を
自分で見つけてみよう
祐子 他にも犬に関わる仕事って多いよね。
ゆき みんながよく知っているところだと獣医さんや看護師さん。最近だと介護士やペットシッターさんなんかもそうですよね。それから、家や車も犬のことを考えて作る会社もあるし、犬を専門とする写真家さんもいたり。犬に関わるお仕事はどんどん増えていて楽しいですね。
祐子 本当だね。薬やフードの開発、ペットの葬儀やペットタクシー。犬と触れあわなくても犬と関わる仕事はたくさんあるものね。
「料理が好き」「デザインが好き」どんなことでも、アイデア次第で自分が先駆けになることもできる。これからはどんどんペット関連産業の裾野は拡大されていくと思います。
ゆき おー!子供たちの未来最高!自分達でどんな仕事ができるのかを考えるといいですね。
祐子 そうだね。『今は一頭の犬にかける平均単価が上昇している時代』と経済産業省は言っているし。
ゆき そうみたいですね。経営者の立場からは低賃金と言われているトリマーという職業。そして犬に関わる職業の全ての賃金を上げていきたい!それがこれからの私の課題です!
祐子 かっこいい!さて、時間はまだ大丈夫ですか。
ゆき はい。思いがけず熱弁してしまったので、うりちゃんを見ながらもう少しイブちゃんとゆっくりしていきます(笑)
祐子 熱い犬談義のお礼にもう1杯どうぞ。
ゆき いつも、ありがとうございまーす。
番組サイト『犬とあなたと珈琲と。』
保護犬猫支援店/トリミングサロン『イヌと暮らす』
放送構成と文:白田祐子(しらたゆうこ)
うり店長のInstagram
ル・ブラン湘南のInstagram
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合い、犬専門雑誌の監修や執筆も行う。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー、他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。