犬とあなたと珈琲と。Vol.54 原田浩二
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1·第3土曜16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。ここで“宝物”の話をすると探し物が見つかるとか?…オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳。愛犬の“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は『特定非営利活動法人セイラビリティ江の島』理事長の原田浩二さん。セイラビリティは「sailing」と「ability」が一つになった造語。海を通じて障がい者や高齢者の心身向上を目的とし、年間約1300人の方々が「体験乗船」をしています。大学入学時のヨット部新人勧誘で自分の名前を書かせてくれた神様に感謝していると話す、ヨット人生50年の原田さん。「宝物」は自分で買った「セール」。『障がい者にとって海は特別のフィールドだと思うんです。例えば、車椅子の場合、陸にいれば階段が登れないなどのハンディキャップがありますよね。でも、海の上ではそんなことは関係ありません。ヨットは“敵なしのツール”になります』。誰もが気軽に乗船できるユニバーサルデザインの小さなヨット。海上へと滑り出すと大人も子供も風の一部になれる。私も経験者の一人なのでした。
―こんにちは。原田さん、ようこそお越しくださいました。
原田:こんにちは。お久しぶりです。あっ、噂通り、看板犬がいるんですね。
―そうなんです。うり店長17歳です。
原田:うり店長って言うんですか。こんにちは。
―名前がうりで一応店長ですので「うり店長」です(笑)原田さんはワンちゃん大丈夫ですか。
原田:はい。子供の頃ですね。スピッツとかシェパード、あと、秋田犬なんかを飼っていました。鶏も飼っていましたね。自家製の卵を食べていました。
―健康的(笑)
目次
セイラビリティは
sailing+ability
―原田さんは、江の島のヨットハーバーで活動中の『特定非営利活動法人セイラビリティ江の島』の理事長さんでいらっしゃいますよね。今から約半世紀前にイギリス王立ヨット協会が障がい者の自立支援を目的として始められた「セイラビリティ」。「セイラビリティ」は「sailing」と「ability」が一つになった造語で、年齢、性別、障がいの有無に関係なく「誰もが楽しめるセーリング」として、世界32か国に広まっていると聞きました。日本でも北海道から沖縄まで30以上の団体があるそうですね。
原田:私たち『セイラビリティ江の島』もその中の一つで、海を通じて障がい者や高齢者の心身向上を目的とした活動を行っています。
セイラビリティ江の島は2004年にボランティア団体として発足して、2006年にNPO法人となりましたが、今では年間約1300人の方々に「体験乗船」をしていただいています。
―1300人とはすごいですね。私も随分前ですが「体験乗船」をさせていただいたことがあります。そして再来週、2度目の乗船をさせていただきます。実は去年も予約していたんですけど、風が強くて中止になってしまったんです。ヨットは風次第ですものね。
原田:ええ、ヨットは風で走る乗り物です。風の中でやるスポーツですね。風を感じて、海の広さも感じながら楽しんでいただけるスポーツだと思います。
進行方向に向かって
並んで座る二人乗りヨット
―特に小型のヨットは強い風や波を受けて転覆することもありますが、セイラビリティで使用しているヨットはその心配はなく、誰でも安心して乗れるユニバーサルデザインなんですよね。以前は「アクセスディンギー」と呼んでいたと思いますが、今は「ハンザ」って言うんですね。
原田:はい。「ハンザクラス」と2015年に名前が変わりました。
船体の下に「センターボード」あるいは「キール」と呼ばれる板がありまして、その板がすごく重たくてですね、ひっくり返らないようにできているので安心して乗れるヨットです。
―「おもり」みたいな役割のものがあるんですね。だから転覆しない。それから驚いたのは、前を向いて二人で並んで乗るんですよね。
原田:これはハンザクラスだけの仕様だと思います。普通のヨットにはない乗り方です。二人で乗る時はインストラクターと一緒に乗ります。そして、ハンモックに乗るのでお尻全体を包んでくれます。
―座面が板に座るのではなく、ハンモックみたいになっているんでしたよね。
原田:そうですね。はい。
―小型の二人乗り自動車みたいな感じですよね。
―そして、もう一つびっくりしたのが、初体験の私にも「ヨット操縦しませんか?」って、ヨットを操縦することができたのも感動しました。
原田:はい。操作がとっても簡単なんです。舵につながっている「ジョイスティック」という棒があるんですけど、それを左右に倒すだけで方向をコントロールできます。右に倒せば右に、左に倒せば左に進む、簡単な原理です。
それからヨットの「帆」、「セール」ですね。セールの下には「ブーム」と呼ばれる棒がついているんですけど、このブームは通常のヨットのよりも高い所にありますので、安全に乗ることができます。
―ブームと呼ばれる横棒。高い位置にあることで、それを操作しても頭にぶつかることがなくって安全なんですね。
車椅子ユーザーも
海の上では敵なし!
―転覆の心配もないし、すっぽりと包み込まれるシートに座っていれば、上下左右、注意すべきものはない。そういうユニバーサルデザインのヨットだからこそ、障害を持つ方や小さなお子さん、そして運動神経のない私やお年寄りの方まで、安定したセーリングが楽しめるんですね。私が体験乗船に行ったときには、車椅子ユーザーの方もいらっしゃいましたね。
原田:障がい者にとって海は特別のフィールドだと思います。例えば、車椅子の場合は、陸にいれば階段を登れません。すなわち、明らかなハンディキャップがありますよね。でも、海の上ではそんなことは関係ありません。ヨットは「敵なしのツール」として、健常者と一緒に楽しめるスポーツです。
―確かに「敵なしのツール」。いいですね。本当にそうですね。
原田:ヨットの世界選手権でも優勝が障がい者、2位が健常者というケースもよくあります。
最近の流行語でよく使われる「インクルーシブ」とか「共生社会」とかって言葉がありますが、それを普通に実践されるスポーツです。そして、障がい者の中には「障がい者だけでやっていてもつまらない」「健常者と一緒にできるから面白い」という人もいます。障がい者と健常者が一緒にできるスポーツはですね、他には多分ないんじゃないかと思います。
原田:ここは『TAKARA CAFÉ』ですよね。白田さんの「田から」、「宝」なんでしょうか。なんだか、自然からの贈り物みたいな名前ですね。
―あー!白田の「田んぼ」の「田から」の「たから」(笑)。なんだか落語みたいで面白いですね。自然からの贈り物。いいですね。『TAKARA CAFÉ』は、ここで宝物の話をしたら、失くした宝物が見つかったり、新しい宝物に出会えたりする。そんな場所になるといいなと思って付けた名前なんです。
原田:いいですね(笑)
―ありがとうございます。
原田:素晴らしい名前です。
―わぁ!ありがとうございます(笑)。「田から」もびっくりしましたけど、もしよかったら、原田さんも宝物の話聞かせてください。
素晴らしい趣味を
持たせてくれた神様に感謝
―原田さんの宝物は何ですか。
原田:私の子供の頃はですね、切手収集って比較的、子供の間では流行ってまして、私も切手の収集が趣味だったので当時は「切手」が宝物だったように思います。今ではですね、自分で買った「HANSA2.3クラスのセール」だと思います。
―それはセイラビリティのヨットに付けられたんですか?
原田:これはですね、私が選手権で遠征をするときに「自分のセール」として持って行って、試合で使うセールです。特別な相棒ですね。特別なセールですね。
―それは本当に相棒ですね。やっぱり宝物は原田さんヨット関係なんですね。そもそもヨットを始められたきっかけはどのようなことなんですか?
原田:大学に入って、ヨット部の新人勧誘で自分の住所と名前を書いたことがきっかけです。ですから、まぁ50年以上になりますかね。その時に名前と住所を書かせてくれた神様に今でも感謝しています。素晴らしい生涯の趣味を持たせてくれたと思っています。
―ヨットの神様。いるのかもしれないですね。あるいは海の神様なんでしょうかね。
先輩の後を追いかけ
ヨット人生50年
―ヨット人生50年。しかも、セイラビリティ江の島の創設者は当時『江の島ヨットクラブ』の会長をされていて、1964年の東京オリンピックでヨット5.5m級の日本代表選手として出場もされた松本冨士也さん(写真上)。私もお会いしたことがありますが、松本さんは原田さんの先輩でもいらっしゃるんですよね。
原田:そうです。まぁ、大先輩ですからね、そんなに学生時代は親しくはなかった…近寄りがたい存在でした。もし、松本さんとお会いしていなければ、こういったボランティア活動とかを経験せずに、単なるヨット愛好家で終わっていた人生だと思います。
―日本のヨットの歴史を振り返る時に、松本さんのお名前は必ずでてきます。そのくらい、セーリングの普及に貢献された方だと聞いています。
原田:50年の付き合いでしたが、私はとても厳しい先輩だったと思っています。昨年3月に亡くなられまして、8月に散骨式をやってその実行委員長を私やらせてもらいました。多分、松本さんが今いらっしゃればですね、ちょっとクレームがついてですね、「なんだ」と言う風にお叱りを受けるんじゃないかと思っております。
セーラーを育てること。
それも宝物
―今年の1月でしたか、日本セーリング連盟がセーリング文化や競技の発展に寄与したメンバーの功績を称える2022年度の定期表彰で原田さんは優秀指導者賞を授与されたと聞きました。素晴らしいですね。
原田:あの、正直言ってありがたいと思っております。体験乗船で一般参加者の方と乗船しているのは、一年間の養成プログラムを終えた会員の方たちです。養成講座で初めてヨットに乗った人が一人前のセーラーになっていくのは見ていて楽しいです。セーラーを育てることも私の「宝物」かもしれません。
私はですね、藤沢にある最大のスポーツ施設である「江の島ヨットハーバー」。ここでやるスポーツが、もっと一般的なスポーツになると良いなと思っています。例えば、隣のお父さんが「ヨットやってるらしいよ」「あーそうか」。そういうようなことが普段の家庭の会話になるといいなと思っています。野球やサッカーはそういう会話になっているんだと思うんですね。
多くの方が「ヨットはブルジュアのスポーツ」と思っていらっしゃると思います。お金をかけないでヨットを楽しむ方法はたくさんありますので、ぜひ気軽にまずは体験してもらえればと思います。
―本当にそう。「ブルジョアのスポーツ」って思われがちなのかしら。
―さきほどセイラビリティ江の島では1年間で延べ1300人の方々が体験乗船されているとお話ししていました。お子さんや障害を持つ方々の方が普通にマリンスポーツを楽しんでいますよね。
原田:ともかく、障がい者でもこの世界に入った人は熱心です。保護者が「この子が楽しめるものがやっと見つかった」と思っている人もいるのではないでしょうか。
私は昔、目が見えない、聞けない、話せないという人と乗ったことがあります。相当緊張しました。まず、何か事故があったら大変だと緊張しましたが、終わってから「楽しかった一生忘れられない」と同行者に表現していました。『セイラビリティ江の島』の活動はやめられないと思いました。
―ここで何か思い出の曲をおかけしましょうか。
原田:じゃあ、私が昔よく聞いていた曲をお願いしましょうか。ナットキングコールの『モナ・リザ』(楽曲はYouTubeにリンクしています)
国内外のセイラビリティ仲間と
思い出をつくりたい
―今探してる宝物はなんですか。
原田:国内外のセイラビリティ仲間と作る思い出でしょうかね。毎年5月には江の島に全国のセイラビリティ仲間に声掛けをして「交流レガッタ」と呼ばれるレースと懇親会をしています。原田は勝手に「日本最高の草レース」と呼んでいて、今年も開催するのを楽しみにしています。
―二人乗りの小さなヨット。だけど、沢山の人達の夢や冒険やハッピーを乗せて、広い海に走り出す。いいですね。私も体験乗船、お友達と行くので楽しみです。今日はお話しを聞かせていただいたお礼にもう1杯いかがでしょうか。
原田:ありがとうございます。じゃあ、よろしくお願いいたします。
―では、ごゆっくりお過ごしくださいませ。
原田:ありがとうございます。
非営利活動法人セイラビリティ江の島のホームページ⇒「こちら」
番組サイト⇒『犬とあなたと珈琲と。』
インタビューと文:白田祐子(しらたゆうこ)
うり店長のInstagramは『こちら』
ル・ブラン湘南のInstagramは『こちら』
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。