犬とあなたと珈琲と。Vol.91 「怖いね」の同調言葉にご用心⁉
聞逃し配信中(音楽は全てダミーです)
収録:レディオ湘南 レディオ湘南をリンク⇒https://www.radioshonan.co.jp/
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳、愛犬のうり。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は常連客のゆきさん(株式会社イヌと暮らす代表取締役)。愛犬がオロオロしはじめると「怖いね」「怖かったね」と話しかけ、犬の気持ちに同調してあげる。そういうことってありますよね。でもそれは、時により不安感を誘発し、安定した心理状態へ導く弊害になることも。不安感を抱いている犬を安心させるには、穏やかさと強さが必要。そして、犬を信頼し、期待心を持って見守り、前向きな言葉をかけること。まさにピグマリオン効果!その効果とは…?今回も保護活動をしながらトリミングサロンを経営しているゆきさんと、人と犬の関わりを探究しているドッグカウンセラーの白田祐子が真面目に雑談します。
祐子 こんにちは。ゆきちゃん、いつもありがとうございます
ゆき こんにちわ、祐子さん。今日はひかりちゃん(写真は本文最後)と来ました~
祐子 ふわふわのお嬢さん。そして、人間大好きぃ…こんにちはー
ゆき 初めましてですよね。可愛いでしょー、真っ白なスピッツ!性格も“花まる”で本当に可愛いです。繁殖場からのレスキューなので、全然お散歩経験がなくて、ちゃんと歩けなかったんですけど、最近やっと、お散歩を楽しんでくれるようになったので、今もブラブラ歩いてきました
祐子 ゆきちゃんの所属する保護団体PAKさんは、一頭一頭に時間をかけ、お見合いへと進めていくから、本当にケアがすごいと思う
ゆき そうですか?他のやり方は知らないので、これが当たり前って思ってやってるのでー。じゃあ、いつものカフェオレお願いしまーす
*中山ゆきさんが所属する保護団体の譲渡会の情報は「PAK」(Paws Adoption かながわ)
目次
愛犬に「怖いねー」って
同調する声かけって…
ゆき なんか『TAKARA CAFÉ』に来るのが久しぶりって感じー…
祐子 ちょっとお休みしていたからね。そうそう。いつも『TAKARA CAFÉ』には愛犬に関するお便りが届くんだけど、この前のお便りで全部回答できなかったから、ゆきちゃんと考えようって思っていたのがあって…
ゆき えー、どんなのですか?
祐子 お散歩でいつも会うワンコと飼い主さん。挨拶など友好的にしているんだけど、その人のワンコが少しバタバタしちゃうと、飼い主さんが決まって「怖いね怖いね」って言う。まるでこちらに原因があるかのように…それでとても嫌な気分になります。どう思いますかって言う内容
ゆき なるほど…あるあるですかね-
祐子 あるあるだよね。どんなにこちらが穏やかにしていても、言う人は「口癖」のように言ってしまう…
ゆき そうですね。口癖…。それかもしれないですね。愛犬に寄り添う的な感情でパパーっと口から出てしまう的な…。祐子さんはそのお便りになんて答えたんですか?
祐子 その時は、他の犬友さんは「怖くないよー」って、うまく対応できているって書いてあったから、「その犬友さんにも話してみては?」って。みんな大人の対応をしていても、内心は同じ気持ちかもしれないじゃない
ゆき 確かに。自分や自分のワンコが相手を怖がらせているのかな…って思うと、嫌な気分になりますよね。
祐子 そういうモヤモヤって「みんなも同じなんだな」って共有できると、ちょっと気が軽くなるというか…、「あー、また始まったー!」って、聞き流せるようになるかもって。その場しのぎの応急処置だけど。これは、これからも経験することのあるモヤモヤ案件だと思う。
ゆき なるほどー。私もついつい犬に寄り添うつもりで発してしまっていると思います。でも、誰かを傷つけちゃう言葉かもしれないですね…。
期待をすれば成長する。
ピグマリオン効果とは
祐子 そしてなにより、犬のためにならないよね。このお便りに出てくる方も犬の気持ちに寄り添い、フォローしていると感じているかもしれないけど、実際はいい結果に結びついてはいないイメージだよね…
ゆき そうか。祐子さんは同じシチュエーションのとき、どうしますか?
祐子 相手の飼い主さんに「怖いね」って言われたら、犬の状態を見てだけど「近づきたい気持ちはあるんだよねー、そのうち慣れるよー」とか「心配しなくても平気だよ。次に会うときはご挨拶できるよね」とか言うかな…
ゆき なるほどー!前向きな言葉ですね。それは飼い主さんのお手本になるんじゃないかなって思います。子供もにも「バカな子ね」とか「ダメだね」って言うよりも、「いい子ね、いい子ね」と言っていると、いい子になる!みたいな。そんな感じに似ていますか?
祐子 まさにそれ。心理学でいう「ピグマリオン効果」
ゆき ピグマリオン効果?
祐子 ピグマリオン効果は「他者から受ける“期待”によってパフォーマンスが向上する」という心理効果のこと。だから、厳しく叱ったり、「こりゃダメだ」って諦めたり、「できないんだよねー」ってすぐ手助けするよりも、期待をもって見守ってあげたり、応援してあげたり、ポジティブな言葉をかけてあげる方が相手は成長するし、良い結果に結びつきやすくなる…
ゆき おー!「諦めずに、期待を持つ」か。じゃあ、「怖いねー」って、飼い主さんに同調してもらうのって、犬的にどうなんでしょうね。安心感を得られたり、なにかプラスに働いたりはしないんでしょうか。逆に「大丈夫だよ!」って言われたら、「自分の気持ちをわかってくれない」って、不安な気持ちが大きくなったり…。そういうことはないですか?
祐子 すごくいい疑問。じゃあ、ちょっと具体的に考えてみようか…
音楽:babyface『Fire and Rain』(楽曲はYouTubeにリンクされています)
ビビり犬に必要なのは
同情よりも芯の強さ
祐子 じゃあ、ゆきちゃんの疑問を今回のケースに当てはめていくね。このお便りのように、散歩をしていたら、いつも出会う顔見知りのワンコが来ました。そのとき、ゆきちゃんは、自分の犬にはどうあってほしい?
ゆき うーん…静かに近づいて上手に挨拶をするか、落ち着いてスルー
祐子 ところが、最初はまぁまぁ落ち着いていたのに、なんだかロオロし始めちゃいました。その時、犬に伝えたいことってなに?
ゆき 怖がる必要はないよ。大丈夫、落ち着いてね
祐子 その気持ちがちゃんと伝わったら、犬はどうなる?
ゆき うまく伝わって理解できれば「怖がる必要はないんだ」って、落ち着いていられる。
祐子 だよね…その時の犬の心理状態は?
ゆき 安心感!リラックスしていて、自分は平気って「自信」がついて、何かにチャレンジする「やる気」もでるかもしれない。楽しい気分ですよね
祐子 それっていいこと?
ゆき はい!いいこと
祐子 そうあってもらいたい?
ゆき あってもらいたい!
祐子 じゃあ、最初に戻ると、安心して楽しい気持ちになってもらうためにも「大丈夫、落ち着いて」ってことを伝えることだよね。それを伝えるときのポイントになる要素って?
ゆき ポイントとなる要素?
祐子 落ち着きや安心感を与えるには、伝わる側はどんな点に注意すべきか、或いは求められるか。たとえば、少し極端だけど航空機でトラブルが起きたとき、客室乗務員はどういう態度でいるか。事故や災害時で助けにきてくれた消防隊員や救急隊員はどういう接し方をしてくれるだろう…
ゆき なるほど。とにかく落ち着いていることが求められていて、バタバタ慌てたり、わぁわぁ騒いだりはしないですよね。この人に従えば「大丈夫だな」って感じられる「強さ」みたいなものも必要!
祐子 それは犬と人の関係でも同じだよね。犬に落ち着ついてもらいたいときは、まずこちらが落ち着くこと。そして、穏やかさや優しさがありながら「私がいるから大丈夫」「ここは私に任せて」っていう、自信や強さも大事。子犬たちが母犬に感じるような安心感と信頼のような…
ゆき 本当にそれですね。私も事故を起こした時、救急隊員さん優しかったー。悪いのは私なのに、すごく安心できて「どうしよう」っていう不安や色々な心配が吹っ飛んで素直な気持ちになれました。
祐子 そのとき一緒に「怖いね、怖いね」「どうしようか」って対応だったらどうかな。犬もオロオロしている時に不安感に同調されたらどうだろう…
ゆき そうかぁー、確かに「安心感」は与えられないですね。傍にいてくれる「パパやママも不安なんだな」って感じれば、その感情から抜け出すことはできない。気持ちの切り替えもできなくて、心配は吹っ飛ばない。
言葉の持つ影響力を
もっと意識しよう
祐子 たとえ「怖い」って言葉を使わなかったとしても、飼い主がどういう心理状態にあるのかってとっても重要…
ゆき はい。犬は飼い主の感情に敏感で飼い主が不安になれば犬も不安になるし、悲しめば犬も悲しい気持ちになる。飼い主がストレスを受けたら愛犬のストレス反応も強くなるっていう話、以前ありました。
祐子 うん。特に人はネガティブワードを使うと気持ちもそっちに引っ張られていくことがわかっているから、どんな言葉を使うかも大切なポイントになってくる。
ゆき うーん…なんかわかってきました。言葉の影響って子供に対してもあるから「自分の言葉が周りにどういう影響を与えているのか」を知ることは大切だなって、ずっと思っていたんです。特に犬と暮らして、犬に何かを教えてあげたいとき、私たちは言葉を当たり前に使うけど、それが犬にどんな影響を及ぼすのか、もっと知識をもって意識することって大切…一番大切なことじゃないかなって思います。
祐子 すごい立派。「大丈夫だよ」の言葉も、不安な気持ちを抱えたまま言うなら効果はないよね。むしろ、より不安感を増幅させてしまう可能性もある。それから、尻込みしている犬を「ほら!大丈夫だから!」って、グイグイやるのは、犬の気持ちやペースを無視した押しつけにもなる。
ゆき 押しつけはダメですね。「わかってもらえない」って、反発しちゃうかもしれない。優しさと強さの両方をバランスよくかぁ…
祐子 うん。難しいけどね…。人をまとめたり、役職的に上に立つ人にも求められる資質だよね。ゆきちゃんはスタッフを何人も抱える経営者であり、3人の子を持つ母親でもあるから、職場や私生活で無意識に発動しているんじゃない?たとえば、子供が転んで泣いたときに「痛いね」「怖かったね」ばかりじゃダメでしょ?
ゆき 確かに。言われてみれば「大したことないよ」って伝えるようにしているかも。
期待を持つと、
正しいサポートへ繋がる
祐子 もう一つ大切なこと。さっきの『ピグマリオン効果』。ピグマリオン効果は、他者から受ける「期待」によってパフォーマンスが向上するという心理作用だけど、それを明らかにした有名な実験があるのね。それは、先生が生徒に「ネズミを使って迷路の実験をしてください」っていうの
そして、先生が生徒にネズミを渡すとき、実際は全然個体差のないネズミなのに、「このネズミは訓練されたとっても優秀でお利口なネズミ」「こっちはちょっとノロマなネズミ」って言って渡す。そうやって、ネズミに迷路を解かせる実験をさせたら、なんと「優秀」って渡されたネズミの成績の方がどんどん向上していた。というもの。
ゆき えー!おもしろーい。ネズミが期待に応えて頑張った?そんなことあり得ないですよね。
祐子 うん。ネズミはそこまで期待に応えられないけど、生徒がネズミに対して「期待」を持ったのと、「優秀なネズミ」だよって渡してくれた、先生の期待にも応えたいっていう、二つの作用が生じたって考えられているの。
ゆき なるほど…。でも、ネズミの本来の能力に差はないんですよね。それなのになぜ?
祐子 生徒は諦めずに取り組む中でネズミの扱い方に差が生まれたから。もし、優秀だって聞かされたネズミの成績があまり伸びなかったら、どう?
ゆき 自分たちのやり方が悪いのかなとか、ネズミの体調が悪いのかなとか…あれこれ考えますね。
祐子 だよね。そうなると、生徒たちは…どうする…?
ゆき 少しでもネズミが取り組みやすいように環境を整えたり、パフォーマンスが上がるように休ませたり…
祐子 さすが、ゆきちゃん。そういうことだよね。だから、私が「怖いね」って言われる場面で「次は大丈夫、できるよね」って犬に声をかけるのって、実は飼い主さんに向けて言っている言葉なの。あなたの犬は平気ですよって。
ゆき それだぁ!
祐子 そうそう。これは、普段のカウンセリングの場でも一番大切にしていることでもあるの。
ゆき そう言ってくれる祐子さんの期待に応えたいって無意識に感じて、上手くいかないのはどこに不具合があるのかなって真剣に考えて、色々工夫をしたり、整えてあげて、積極的に犬と向き合うようになる。そうしたら、ワンコも心地いいなってリラックスできたり、飼い主さんを信頼するようになって、いい結果が生まれる…
祐子 そうなることを期待している。ただ、たとえば、親が子供に「あなたはできるコ」って言い続けたら、子供はプレッシャーに押しつぶされる可能性もあるし、犬も勝手な期待をかけられて「なんでそれが出来ないの?」って、落第点をつけられる可能性もあるよね
ゆき 確かに
祐子 だから「期待をもつ」というのは、自分の価値観を押し付けたり結果を求めるのではなくて、諦めずに信じてあげること。そうすれば、相手が困っている時にどんなアシストをしてあげるといいのかな、どんな態度で接するといいのかな…っていうのが見えてくるんじゃないかな。
ゆき なるほど。よくわかりました。
曲2: Sade『Kiss of Life』(楽曲はYouTubeにリンクされています)
「怖かったね」の後には、
「もう安心だよ」
祐子 今回の話はあくまでも「他の犬にオロオロしちゃったとき」のケースだから、犬の状態によっては当然違う対応も必要だよね。それからネガティブな言葉も状況によっては、ワンコをギュッと抱きしめながら言う時ってあるよね。
「怖かったね。ごめんね。でも、もう安心だよ」って、いっぱい甘えさせて、自分も甘えて、幸せで包んであげる。そうすると気持ちがホカホカゆるゆるして、幸せホルモンがじゅわじゅわーっと溢れ出る。至福の時…
ゆき いいですねー。それは、どんな飼い主さんもやりたいやつですね。幸せホルモン溢れ出ます。あと、祐子さんも今言っていた「違うケース」の場合ですよね。実は最近失敗したことがあるんですよ。 柴犬のケンタ君で…。その話も聞いてもらいたいです…。
祐子 ケンタ君どうしたの…。ケンタ君はいつもいい子で大人しく待っている印象だけど…。あっ、ひかりちゃんも偉いねー。長い話に付き合ってくれて(笑)
ゆき ひかりちゃん、本当にいい子なんですよー。こうやって、褒めて育てるのが大切ですね。自分が使う言葉、自分が発する言葉がどれだけ影響を与えるかよくわかりました。特に犬に対しては、言葉の裏側の感情まで見抜かれちゃうから、逆効果にならないようにしていきたいです。
そのためにも、まずは自分の犬を信じること、そしてよく知ること。やっぱり、そこに尽きますね。そうすれば、慌てずに落ち着いて対応することができて、結果、犬も安心して落ち着いていられるようになる。
祐子 その通り!その循環が大切だよね。犬はどことなーく飼い主に似てくるよね。さて、じゃあ、今日も犬談義のお礼にもう1杯いかがでしょう…時間は大丈夫?
ゆき はい、大丈夫でーす。いつもありがとうございます。いただきまーす。
番組サイト『犬とあなたと珈琲と。』
保護犬猫支援店/トリミングサロン『イヌと暮らす』
放送構成と文:白田祐子(しらたゆうこ)
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白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬のカウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”(2023年天界へ)。大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の成長の研究を行い、科学的根拠に基づいた独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合い、犬専門雑誌の監修や執筆も行う。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。