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事件は現場で起きている#2 手帳を操る男

犬の前では堂々とすべし

闇のように黒いワゴン車の扉が、音もなくスライドする。

中から、これまた闇黒づくめの男たちが、音もなく、躊躇することなく、わたしに近づく。スタスタスタ。無駄のない身のこなしの男たちが5人。そして静止。一人が一歩前へ出る。

「ちょっといいですか」

この場面で2人同時の一歩前や、一瞬の出遅れもあってはならない。そういう規範の組織のようだった。

わたしは「はい」と答える。フラットな声で。犬が一緒にいるときに動揺するのは禁物だ。

愛犬を守るべきときは、落ち着きと強さを優先させなくてはいけない。それは、正しい判断を下すための手段でもあるけれど、最大の理由は、飼い主のネガティブな感情を犬に伝播させないため。

人が緊張したら犬も緊張する。それくらい人と犬は繋がっている。

緊張と不安は表裏一体の存在。不安や怯えや緊張などのネガティブな感情は、往々にしてパニック行動を引き起こす。だから、犬が不安や緊張が高まった結果起こす行動は、人間から見ると「困った行動」に見えてしまうのだ。

この負のスパイラルは何気ない日常生活の中でもたくさん起きている。だから、わたしたちは愛犬の前では意識して、落ち着きを保つことがとても大切になってくる。飼い主の落ち着きこそが、愛犬の唯一無二の精神安定剤なのだから。

警察手帳をめぐる妄想

とにかく素早い。

闇黒づくめの男はコートの胸元に右手を差し入れたかと思うと、すぐに引き抜く。無駄な動きも抵抗も一切ない。

手には二つ折りの黒手帳。それに、左手を添え下方に開く。何事も素早い。こういう一連の動作は、何百回と経験するうちに身につくのだろうか。もし「全国手帳取り出し大会」があったら、闇男は確実に優勝するだろう。

いや、対抗馬にマジシャンがいるではないか。さすがにマジシャンには負けるかもしれない。彼らは生きた鳩だって出すのだから。

「警察です」。闇男はそう言って、絶妙な角度で手帳をこちらに向ける。
刑事ドラマが好きな人には、たまらないシーン。

見せられたのは金色のエンブレム。それは、羽のある生き物でワシのように見えた。ただ、あまりに一瞬のできごとで、わたしの弱い視力では断言できない。ただ、旭日章でないことは、はっきりとわかった。

漂白された感情

彼らはみんなどことなく似ていた。それは顔つきや体形ではない。なにしろ、彼らに「顔の印象」というものが全くないのだ。全身の闇黒に目が奪われて、顔にどうしても焦点が合わない。隙間なく閉じられた黒いコートだけがそこに浮いているような。漂白された感情。

「事件の捜査をしていまして」と、闇男は続けた。声も説明のしようがない。高いのか低いのか、カタイのか柔らかいのか。ただそこに不快さはない。

後から知ったのだけれど、本当は警察手帳を開いたときに所属と名前を伝えるのが決まりらしい。そして、名前などの情報は手帳の内側上部に書かれているのだと。あの微妙だか絶妙だかの角度でこちらに向けたのは、そういう理由があったのかなと今は思う。彼らは自分たちの情報はあまり知られたくないのだなと。

つづく

文・白田祐子

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