事件は現場で起きている#1闇男現る
どうせイヌのいたずら現場でしょ。
クマのぬいぐるみの抜け殻とコットンで雪化粧になったリビング?それとも、消えたクッキー?泥棒が入ったあとのような寝室!
こういうタイトルにすると、たいていの犬好き人間はそう思うはず。でも、この話は違うのです。
ペットトラブルのもつれ
事件現場
あなたは、今年この言葉を何回口にしましたか。わたしは犬の咬傷事件などペットトラブルの和解仲裁もしているので、みなさんの使用回数よりも多いかもしれません。
ペットトラブルは身近な事件です。そして、互いの理解や感情がもつれてしまうと、解決するのは難しく、もつれた紐をほどくのは簡単ではありません。
たとえば「うちの子が相手の犬を噛んだのは事実だけれど、原因は向こうにもある!医療費は払っても、慰謝料は納得いかないし、謝罪もしたくない」という、もつれはよくあります。
そうした場合、噛まれた犬のコミュニケーション能力や飼い主がどのくらい犬をコントロールできているかを調べます。そうすると、状況によっては、10対1で噛んだ方が悪いとされる事件にも、一石投じることが可能です。
あるいは「相手の犬がしつこいから、うちの子が顔を振って注意をしただけなのに、噛まれた!精神的なダメージを受けた!と騒ぎ立てられ困っています」というもつれでは、犬の習性について説き、歯を当てる行為と噛む行為は違うことを意見することができます。
被害者側になった時、犬同士のことだからと見逃したり、泣き寝入りはできない重大なケースもたくさんあります。また、犬同士ではなく、犬が人を噛んだ、人が犬にケガをさせた、犬の鳴き声騒音などなど、ペットにまつわるトラブルは事件の数だけ、苦しみや悲しみがあります。ですから、色々な専門家が様々な視点から意見を述べることは、とても大切だとわたしは思っています。
閑話休題
でも、今回はわたしがお話しするのは、そういう「犬の事件簿」とも違います。
静寂と視線
その日は、なんとなく、いつもと雰囲気が違うと感じていた。
いくつかある散歩コースのひとつ。時々立ち寄る公園。休日には大渋滞する海岸通りまで50mとはいえ、車がすれ違うのもやっとの住宅街の角。
トンビやカラスが鳴く、人気のない公園。
うりが歩きながら茶色の瞳をこちらに向ける。これは、のどが渇いたという合図。わたしがうなずき返すと、きつねのような尻尾をゆるっと揺らす。「お水飲んでいこうね」と、公園に足を踏み入れ、立ち止まる。
なんだろう。落ち着かない。ざわつく。
そうだ、いつもは路上駐車なんてないのに、正面に黒く大きなワゴン車が1台、左側にも1台。しかも、真っ黒なスモーク張り。
わたしの住まいは、いわゆる観光地なので、TVや映画の撮影は珍しくない。だからスモーク張りのワゴン車はよく見かける。でも、それとは明らかに違う。圧倒的な威圧感。
威圧感の理由は、きっと、艶々の高級車なところ。もう一つは「黒いにも程がある」位、真っ黒なところ。こんなに闇みたいな車、見たことがない。
なんかヤバイ人たちかな。ブツの取引とか。
中に人は乗っているのだろうか。やたら静かなのも異様だ。防音装置をほどこしたような人工的な静けさ。でも強い視線を感じる。絶対にわたしは見られている。それも沢山の目で。じっと。
なんて思いながらも、わたしは逃げださない。だって、うりが水を飲み、おやつも食べると言うのだから。ベンチにカバンを置き、腰をかけようとした、その時だった。
つづく
文・白田祐子