犬とあなたと珈琲と。Vol.112 岩谷 希未

聞逃し配信中(音楽は全てダミーです)
収録:レディオ湘南
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ『TAKARA CAFÉ』。オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳、愛犬の“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は絵描きの岩谷希未(イワヤノゾミ)さん。木版画やペン画を中心に多くの作品を手掛けられています。なかでも、希未さんの描く動物たちの表情はユーモラスなのにどこかせつなくて、目が合った瞬間、不思議な魅力に心を奪われます。「動物もカタチだけを描きたい訳ではなくて、その体温だとか重み、手応えとか手触り、そういうのがあって初めて描ける感じがします」。介護福祉士としてお勤めされる一方、動物保護団体や子ども食堂でのボランティア活動も行い、それらの経験を通して感じる「重み」から生み出される作品たち。アート、犬猫、そして、厳しい現状を目にするなかで想いえがく、これからの目標を伺いました。

――いらっしゃいませ。こんにちは。希未さん、お待ちしておりました。
岩谷希未さん(以下:岩谷)こんにちは。おじゃまします。うり店長もこんにちは。うるるもいた。
――普段は譲渡会でお会いしていて、7月は鎌倉のミルクホールで個展を開催したときなど、ちょくちょくお会いしているんですけど、犬猫の話し以外はあまりしないので、今日は楽しみにしていました。
岩谷:こちらも楽しみにしていました。

目次
版画の面白しさは
作品と自分の距離間

――さて、希未さん。岩谷希未さんは動物保護活動に携わりながら、そして、社会福祉の世界で働きながら、年に数回展示会を開くなどされている絵描きさんでもあります。今日はどこまで話を聞けるのか…って、ドキドキしています。まず!私が大好きなノンコさんの作品。絵についです!作品を見ると、ペン画と木版画が中心の印象です…
岩谷:そうですね。今はメインは木版画ですね。この間の鎌倉のミルクホールはペン画と木版画が半分ずつぐらいかな…。ペン画を出したのは本当に久しぶりで、ここ数年ずっと木版画でやってます。なので、ギャラリーさんの方で肩書を「木版画家」って書いて下さったりもするんですけど、特に自分ではそのように名乗ったことはなくて、「絵描きです」って言ってます。美大でグラフィックデザインを学んでいたんですけど、そこの授業でちょっとだけ銅版画をいじらせていただいて「版画面白いな」って思ったんです。それで、卒業後に本格的にアトリエに通って、銅版画を教えていただいたり、独学で木版画を始めたりして今に至ってます。
――版画って仕上がりは当然鏡写しになりますよね…。あと、凹凸の出し方、インクの塗り方、刷り方…彫刻刀の使い方…小学校の授業に取り入れられる理由がなんとなくわかる複雑な世界です。版画からは色んなことを学べるのだろう…って思うんですが、ノン子さんから見て、版画の魅力はどんなところですか。
岩谷:そうですねー…。一番は作品と自分の手と距離があるというか…下絵を描いて、転写して、彫って、刷って、その段階で自分から離れていくというか、ちょっと距離がある感じですね。そして、そこに偶然性が加わってくる。そこが、面白いかなって思っています。その反動で最近ペン画、自分で直に描く感じを…
――対極にある…
岩谷:対極ですね。そうです、対極。だから、その真逆のこともやりたくて…最近はそうですね。
動物たちの体温…重み…背景。
知るから描ける世界観

――先日私が自宅に迎え入れたのが…このこたち…。段ボールに書かれた、なんとも言えない表情の犬や猫。表面がツルっとしていて、ガラスコーティングされているような作品ですよね。もう一つは、ベニヤ板ですね…。クマとウサギが背中合わせになっていて「こころの声」というタイトルの作品です。とても繊細なタッチの作品です。 これ(写真左)はどうなっているんですか?
岩谷:段ボールの上に下地材を塗って、そこにボンドの層を作ってます。
――木工用ボンド?
岩谷:そうです。木工用ボンドを水で溶いて、刷毛でドロドロにしたものに、千切った和紙を混ぜて塗るとこういう立体的な層ができまして…。そこにペンとかで描いて、色を塗って、さらに、ニスを塗って、乾かして塗って、乾かして塗ってを3回。そうすると、そういう層ができます。
――ちょっと凹凸もあって、本当に不思議な…あれ、でも、それって企業秘密じゃないんですか?
岩谷:そうですね。でも、この前、鎌倉の展示会に来て下さった、他の方にも話したので(笑)。みんなに同じことを聞かれるんです。なんですかこれ?ガラスですか?七宝ですか?って
――だって、本当にすごく不思議だもの…。それで絵も本当にかわいくって、なんともなんとも言えない表情です。ウサギさんなのかな?犬なのかな?…って。見慣れた生き物なのにちょっと違う。いつも心の中にいるんだけど…なんだか温かくて切ない不思議な生き物たち…。
岩谷:そうですね。「何?」って言われても「なに」ではないんですね。やっぱり動物もカタチだけを描きたい訳ではなくて、その体温だとか重み、手応えとか、手触り、そういうのがあって初めて描ける感じがしますね。だから、一番身近にいるワンちゃんや猫ちゃんの感じが、どうしても多いんです。でも、それだって今、保護活動をちょっと手伝いさせていただくなかで、幸せじゃない子たちもいっぱい見る機会がどうしても多いので…それぞれのバックボーンがあるじゃないですか…。なので、ワンちゃんを描いていても、ちょっとそういう「影」みたいなものは…どうしてもありますよね。
――「影」ですよね。本当この表情から伝わるせつなさがあります。そう、希未さん、ノン子さんは「絵の好きな獣医」になるか「動物好きの絵描き」になるかの2択の高校生だったって聞いてます…
岩谷:はい、そうですね。もともと動物のお医者さんになりたかたんです。子供のときから。なんですけど、進路を考える時に、絵もずっと好きだったので「動物好きの絵描き」になるか、逆「絵を趣味にする獣医さん」になるか。どっちにしよう…ってなりました。
――何が決め手だったんですか?
岩谷:何が決めてだったんでしょうねー…(笑)

音楽:Robbie Dupree 『Steal Away』(楽曲はYouTubeにリンクしています)
動物虐待有罪判決の
保護団体にいて…

――今日は動物と福祉とアートの3本柱、絵描きの岩谷希未さんが遊びにきてくださっています。美大を卒業してからはどうしていたんですか?
岩谷:美大を卒業してからは、アルバイトで生活をたてながら制作をずっと続けて出版社に持ち込みをしたり展覧会を開いたりしていましたね。
――その後に犬猫や保護活動との出会った
岩谷:そうですね。犬猫は割と最近でちょうどコロナの頃ですね。ワンちゃんを飼うなら「保護犬がいいな」っていうのは、ずっとあったんですけど、じゃあ保護犬ってどこにいるの?とか、あんまりご縁がなくて聞いたことがなかったんです。でも、コロナになってネットを見る機会が増えまして、そしたら藤沢市内にも保護団体ってあるんだって。そこではじめて、保護犬保護猫っていうのが身近にいるんだなって知りました。それで、たまたま最初にヒットした団体のホームページがとても立派だったんです。ボランティアの募集もしていたので、最初にヒットしたそこに連絡をとって、見学にいかしていただいた。それがはじまりです。
――ところが、そこを開けてみると明らかにその空間に対して収容されている頭数はオーバーしていて…汚い。さらに犬たちはその団体の代表からの虐待を受けるなどなどがあって…。2022年ですね、代表は動物愛護法違反で逮捕。翌年起訴されて2年越しでやっと有罪判決が言い渡されました。控訴するも棄却、即日結審に至りました。逮捕の時点で、TVや新聞、ネットなどでも広く報道されましたので、これは話てもいいことだと思うんですけど、希未さんは当時、一歩足を踏み入れた時にどんな印象を持ちましたか?
岩谷:本当に他を知らなかったので、こういうものなんだと思いました…最初に行ったときは。ただ、実際にあれだけの…100以上の犬猫がいて、生きているわけだから、毎日お散歩しなくちゃいけなくて、ご飯をあげなきゃいけなくて、そして食べたら出すでしょ。その世話はもう止められない。それだけですよね。
――犬を棒で突いたり、殴ったりする動画がずいぶん出回りましたが、そういったことを目にすることはなかった…?
岩谷:全くなくはないんですけど、私が行っていたのは、だいたい日曜日の夜だったんですけど、日曜日の夜は自然とそういう人たちは来なくなっていました。とにかく行ったら、すぐに3.4.5頭くらいをまとめて散歩です。3往復、4往復と。それで、帰ってきたら排泄物の掃除。そんなことをしていたら、あっという間に帰らなきゃいけない時間になるので、ただただ、本当にただただ、汗を流していました。あと、声かけです。やっぱり言葉の暴力…「ダメな子」だとか「ばか」だとか、ひどい言葉。もっともっと、ひどいような言葉をかけるんですよ。それを見てたから、犬たちをシェルターから外に連れ出して、聞こえないところまで連れていって、「かわいいね」「いい子だ、いい子だよー」って、一匹一匹、ひたすら声をかけていきました。
目の前の動物のために
何ができるだろう
――募金活動とかはされなかったんですね。
岩谷:私はそっちは一切やったことないですね。散歩オンリーです。
――募金詐欺だったんじゃないかって言われることもありますけど…その狭間で苦しくなかったですか
岩谷:そうですね。実際、あのお金(*募金)であの人たち(*団体代表とその家族)が生活していたのは事実なんですけど、ネットで言われている「一切、医療をかけていない」、って言うことはなかったです。もちろん、100%ではないと思うんですけども、動物たちの医療費には確実になっていました。いましたけれども、あの人たちの生活費にもなっていた。と思います。今だからですけど、あれだけの人間が関わっていて、自分たちが一生懸命やればやるほど、結果的に「あの人たちの手助けをしてしまった」って…。そういう面は確かにあると思うんですよね。それは、私自身、なんとか乗り越えなきゃいけない、罪悪感みたいものになっています。まして、お金集めの方を手伝っていた方たちは…実際、あれだけの犬猫に毎日ご飯食べさせるにはお金が必要なので、だから、募金活動をやっていたんだけれども、結果的にそれがあの人たちの生活費にも回っていて、団体の存続を長引かせてしまった。そういうことに関しては、今もちょっと刺になっていたり‥‥人によっては、刺になってたりするのかなって思います。
――そうですよね…。募金をするためだけに集められたアルバイトの人もいたようですので、そういう人たちは除外して、本当に真っ当に犬猫の命を繋ぐために活動していた人たちは、誰にも責められる必要はない!誰も責めることはできない!…と、私も強く思っています。
行き場のない犬や猫を
これからも救い続ける

――今は常連客のゆきちゃんが所属している保護団体「PAK」でボランティアをされていて、長期預かりさんというか、もう家族として迎えた…猫ちゃんが2匹。
岩谷:はい。もう家族として、うちで最期までみます。今は猫が2匹。どっちとも白血病プラスできた、エキゾのショートヘア―のサンゴちゃんと、マンチカンMIXのスズちゃんです。今、わんこの席が空いてますよ!
――それは誰への語りかけなのかな(笑)
岩谷:できれば、シニアのお看取りわんことか…うちに。私、得意だと思うので…
――それはもう、犬たちが扉の前で待っているんじゃないかなって思います。
岩谷:はい。待ってまーす!
――さて、ここで一息。なにか、お好きな曲をおかけしましょうか。
岩谷:はい。じゃあ、『コルコバード』なんですけど、中でもアストラッド・ジルベルトが歌ってるバージョンを。
――いいですね。大好きです。どうしてこの曲にしましたか?
岩谷:私、趣味でジャズのバンドに参加してまして、そこでピアノを弾いてるんです。そのバンドで、今、コルコバードやってまして…
――多才!私もノン子さんの演奏聴いてみたいです。演奏会の予定とかありますか?
岩谷:ちょっと先になるんですけど、11月30日(日)藤沢本町の「CLAJA湘南藤沢」でライブがあります。フロンティア・ジャズ・アンサンブルっていうバンドで13:00スタートになります
――また日にちが近くなったら案内してくださいね。はい、よろしくお願いします
音楽:アストラッド・ジルベルト『コルコバード』(楽曲はYouTubeにリンクしています)
福祉業界では
次世代の育成が目標

――希未さん。今探している宝物はなんですか。
岩谷:私が関わっているのは、動物・高齢者、そして子供関係のボランティアもしています。特に、高齢者の介護の仕事をしているのもあって、「認知症」の理解を子供たちに広めたいなと思っています。そうすると、学校の行き帰りや放課後遊んでいる子供たち、ひとりひとりが町の防犯カメラになれると思うんです。ちょっと様子がおかしい、おじいちゃんやおばあちゃんがいたら、すぐに声をかけてあげる。そうすれば、今、行方不明になってしまう方も多いんですけど、早い段階で見つけられるんじゃないかって、思っています。次世代の…すごく若い子たちを対象とした、次世代の育成をしていきたいと思っています。
――素晴らしい。ノンコさんとは、高齢者や支援が必要な人とペットの問題も引き続き一緒に考えていきたいなと思います。そうそう、11月には個展も控えていましたね。
岩谷: はい。次の展示は11月に門前仲町の辰巳新道にある「ギャラリーダイジロ」さんというところで11月7日(金)から11月11日(火)までやります。
――個展タイトル「The garden」。めちゃくちゃ可愛い版画がアイキャッチになっています。今日はまだお時間はありますか?楽しい会話のお礼に私から…もう1杯いかがでしょうか
岩谷:ありがとうございます。遠慮なくいただきます。

岩谷希未さんのInstagram⇒「こちら」
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インタビュー・構成・文:白田祐子(しらたゆうこ)
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白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラ「ル・ブラン湘南」代表・ドッグカウンセラー。1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは沖永良部島出身、雑種の女の子で名前は“うるる”(うり店長は2023年お空組)。大学で心理学を専門的に学び、人と犬の社会心理学と犬の心の成長が専門。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に喜ばれています。
保護犬猫の譲渡会開催や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合い、セミナー講師、犬専門雑誌の監修や執筆も行う。愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1Mhzレディオ湘南にレギュラー出演、2022年4月から新番組『radio cafe犬とあなたと珈琲と。』がスタート。神奈川県三浦郡葉山町にて『お寺でわんにゃん縁結び』を主催