犬とあなたと珈琲と。Vol.60 壹岐信二
宝製菓presents radio café『犬とあなたと珈琲と。』FM83.1MHz レディオ湘南(第1.第3土曜 16:00~16:29)放送
湘南の海を見下ろす、小さなコーヒーショップ「TAKARA CAFÉ」。オーナーは心理士でドッグカウンセラーのしらたゆうこ。店長はカフェオレ色の17歳。愛犬の“うり”。美味しい珈琲を飲みながら、お客様との会話に耳を傾けてみませんか。
今回のお客様は『アジア航測株式会社』環境部の主任技師壹岐信二さん。『アジア航測株式会社』は主に航空機やドローンにレーザー装置やカメラを載せ、空中から様々なデータを取得。それらのデータを基に2次元3次元の地図を作製したり、災害直後の画像を無料公開するなど社会貢献にも大きく関わっています。「社会をうまく生き抜くには“玉石混交”の中から、いかに良い玉を取り出せるか」と語る、壱岐さんは環境部に所属しながら、今年大学へ進学。「今のところ、仕事ととの二刀流はうまく出来ていて、楽しいです」。勤続40年、勉強と鉄道と海岸線とお酒が好き。「62歳で卒業!」を目指す勢いは、まだまだ止まりません。
――こんにちは、壱岐さん。ようこそお越しくださいました。
壹岐 こんにちは。祐子さんお久し振りです。3か月ぶりくらいかな。あっ、うりちゃんこんにちはー。思っていたより大きいなぁ
――はい、うり店長、柴犬よりも一回り、最近の柴からみると二回りは大きいですね。17歳と7か月、足元が若干ぐらついていますが、毎日元気にお散歩しています。壹岐さんワンちゃん大丈夫ですか?
壹岐 ワンちゃん好きなんですよ。高校生の頃かな10年位、雑種犬と暮らしていたこともあるので、犬は平気です。でも、今は猫ちゃんが気になっていて、道端で「ニャー」なんて聞くと、思わず振り向いたり、ワクワクしますね。
目次
航測=航空測量の略
――壹岐さんは『アジア航測株式会社』にお勤めでいらして、はじめてお仕事の内容を聞いた時はひたすら「へー!なんかすごい」って感じでした。国土地理院とか、絶対に私の日常には出てこないワードが当たり前に出てきますものね。『アジア航測』の「こうそく」は「航空測量」の略でしょうか。
壹岐 はい。そうです。
――「飛行機を使って空から測量する会社」。そうイメージしていますが、あっていますか
壹岐 大丈夫です。私が勤めている『アジア航測』の仕事の柱としては、まず、祐子さんが言ったように、航空機やドローンなどにレーザー装置やカメラを載せて、空からデータを取ること。そして、取ったデータから2次元や3次元の地図を作成したり、古い地図と比較して変化量を測ったりするんですね。短い時間で迅速に、とても精度の高いデータを取得できるというのが特長です。
――測量したデータから作成した地図はどう利用されるんですか
壹岐 例えばですね、暮らしに密着しているところでは「固定資産の評価」や「下水道計画」に使われます。また、自然災害の被害の把握などにも使われていますが、その時は徹夜で解析して、翌日には結果を出さなくてはなりません。
自然災害に伴う
情報提供を無料公開
――そう、ホームページのトップに2023年2月に発生した「トルコ大地震」の震源地付近の「赤色立体地図」というのも無料公開されていましたね。
壹岐 そうですね。「あかいろ」ではなく「せきしょく立体地図」です。
――「赤色立体地図(せきしょくりったいちず)」
壹岐 はい。というのは、さっき話した3次元の地図なんですが、これは『アジア航測』の特許技術で、細かい地形から大きな地形を1枚の地図に立体的に表現しています。まぁ、このトルコの震源地付近は複雑な地形をした場所なので、災害直後に現地に入る政府や世界中の科学者たちが、土地の概要を把握できるようにと、色々と工夫しています。
――無料で公開するって言うのが素晴らしいですね。「東日本大震災」の時も、発災の翌日から被災地の空中写真撮影を実施して公開していたそうですね。
壹岐 はい。自然災害の発生に伴う情報提供を行うことで、社会貢献をしています。災害時は地元の空港は自衛隊が優先なので使えないんです。で、私たちは燃料を見ながらの勝負です。ヘリで飛べるのは、だいたい2時間、セスナ機では5時間ですね。
――その時間でどのくらいの範囲を撮影できるのか、私には想像もできないのですが、空中写真ですと素人目にも分かりやすいですし、専門家は多くのことを検証できるんですね。
空から海の深さを測る⁉
――壹岐さんはその辺のプロ、「環境部」に所属されているんですね。
壹岐 そうです。「環境部」は山や平野、川や海の「自然環境調査」がメインです。私は「海洋チーム」で「海」を担当しているんですが、最近は空から海の深さを測ることもしています。
海の測量は、これまで船で超音波を使って行っていたんですけど、船は天候に左右されるので効率が悪いし、水深が浅くなると危険ですから、満足な測量ができなかったんですね。でも、平成28年頃から民間の航空機による海の測量が確率されたので、測量は安全に且つ広い範囲を瞬時に取得できるようになりました。
それから船を使って水質や海藻の調査、アサリの養殖もしています。
――アサリの養殖ですか?
壹岐 アサリ養殖は横須賀市で、そうですね…10年ぐらいやっていて、目的は養殖の確立と水質と底質の浄化です。干潟に置いた砂利袋に自然に産まれたアサリが着底して、他の生物に食べられることなく成長しています。私も毎月そこへ行ってアサリの成長を見守っています。
――アサリの成長を見守る。そう、アサリは海水のろ過機能を持っているので水質の安定化に貢献しているって聞いたことがあります。そういう、海の中の環境も調べるんですね。
環境課題を加味した
地図を開発
――なんだか面白そうですね。
壹岐 そうですね。あとですね、最近は洋上風力発電の仕事も多くて、数年前はその分野の先進地でもあるイギリスにも勉強に行って、帰ってからは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「洋上風況マップ」とういうのを開発しました。
これは、日本のEEZ(排他的経済水域)までを対象に、シミュレーションで風の強弱を計算したり、水深やウミガメなどの自然環境、航路や米軍演習区域などの社会環境の情報や法規制なども、自由にWeb上で重ねられるシステムなんです。
海に風車を建てる時には、当然、環境課題もあるからですね。
――あーなるほど!ディープですね…。洋上風力…横浜あたりでしたら周囲の風景に溶け込んでいて違和感はないんですけど、周りになにもない海上に風車が突然現れる。そういう光景を見てちょっと驚いたことがあります…。「なんでここに?」と、思う事もありますけど、様々な情報から最も適している場所を選ぶ。そのためには目で見る事のできない海の中の情報が沢山あるんですね。
壹岐 実は海の中の情報って釣りをするときにも役立つんですよ。それで『釣りドコ』って、釣り人達のために「空から測った海の地図」の上に、魚が釣れた情報をみんなが投稿していく。そういう誰でも参加できるwebサイトも作りました。今度見てみてください。
――はい!釣り人の貴重な情報になりそうですね!
曲:Santana (feat. Michelle Branch)『The Game Of Love』(楽曲はYouTubeにリンクしています)
壹岐 このお店は『TAKARA CAFÉ 』って言うんですよね。うりちゃんを見ていて、大判小判のポチの歌を思い出しちゃった(笑)
――♪庭の畑でポチがなく~♪ですね(笑)
壹岐 お宝をザックザク発掘できそうな…(笑)
――いいですねー。『TAKARA CAFÉ 』はここで宝物の話をしたら、失くした宝物が見つかったり、新しい宝物に出会えたりする。そういう場所になるといいなと思って付けた名前なんです。
壹岐 そうなんですね。
――もしよかったら、壹岐さんも宝物の話きかせてください。
夢は鉄道の旅とインド旅行
――壹岐さんの宝物はなんですか。
壹岐 私ですね…子供の頃、好きだったのは『ブルートレイン』ですね。母の故郷が鳥取でしたので、夏の帰省時には特急『出雲』に乗れるのが楽しみで、いい思い出です。今は寝台車のほとんどは廃止されたみたいですが、暇になったら車中でお酒を飲みながら、のんびりと旅をしてみたいですね。
――いいですね。鉄道の旅。「お酒を飲みながら」っていうのが、壹岐さんのポイントですよね(笑)
壹岐 はい(笑)
――壹岐さんは、結構「鉄道好き」なんですよね。
壹岐 そういう、祐子さんと一緒ですよ(笑)ゆっくり鉄道の旅をしたいと思っても、多分、駅についたらスマホを持って、駆け足で珍しい電車を撮影すると思うので、あまり休めないかもしれません(笑)
――そうね(笑)。鉄道好きの話か、本好きの話か忘れましたが、愛読書の一つに沢木耕太郎の『深夜特急』があるっていうのも共通点でしたよね。
壹岐 そう!私も読んで感激したんですよね。特にインド編が。退職したら行ってみたいなって思っています。
――壹岐さんの退職後の計画1「インド旅行」(笑)。
継続が一番大事。
年に3本の論文を執筆
――地方出張も多いですよね。鉄道を利用したりしますか?
壹岐 移動は飛行機や新幹線とレンタカーが多いですね。ほどよく揺れる電車では、スマホは我慢して本を読んでいます。夜は外に出て、美味しいものを探しては飲み食いする。そういう時間も出張の楽しみですよね。あと、現地ではなるべく海岸線を走るようにして、今は仕事と趣味の境が無くなっています。
――海岸線マニア!(笑)壹岐さんはとても勉強熱心なんですよね。以前、論文を何本も書いていると聞いて、すごく驚きました。専門誌に掲載されたり、表彰もされてもいますよね。なにかきっかけがあったんですか?
壹岐 はい、この話がですね、少し長くなるんですけど。平成19年ですか、私は40歳代前半でしたが、その前から会社は業績が振るわず、約200人の希望退職を募ったんです。「会社に残る」か「出る」かの選択で、まぁ、私はですね踏み止まりましたが、「これからは自分を変えなければいけない」と、そのとき決心したんです。
ちょうどその時、海岸工学の先生に出会って「壱岐さん、報告書の著作権はお客様にあるので、勝手に引用はできないし、技術はいつか他の業者に真似されるだけ。そうであれば、お客と一緒に論文を発表して残すのが良いよ」と、言われたんです。
これはスゴイと思ってですね、それからは通勤中にその先生の論文を何百件読んで、重要な箇所を自分で作った「海岸ノート」っていうのに書き写して、休日はそれをパソコンに打ち込む。それをずっと続けました。そうしたら、知らないうちに論文を書く力がついて、今では年間3件は発表しています。
――すごい!それは、素晴らしい先生に出会いましたね。
壹岐 まあ、そうなんですけどね。今でも勝手に弟子になっていますが…バレていませんね(笑)。社会人は「継続」が一番大事ですね。
――継続が一番大事。私も心理学や動物行動学の研究というのがベースがありますので、論文を書くのは好きなんですが、最近はあまり縁がないんですね‥‥「継続」心に留めて置きます。
技術者が経営を学ぶ。
58歳で大学入学
――そうそう。今年の4月から大学生なんですよね! 入学おめでとうございます。
壹岐 はい。ありがとうございます。私は高卒で今の会社に入ってちょうど40年なんです。これまで仕事がコンサルタント業務ということもあって、国の予算や経済、科学技術など、とにかくですね、日々、勉強をしてきました。
でも、あと2年で定年を迎えますので、これからは自分のための勉強をしてですね「62歳で卒業!」を目指していきます。今のところ、仕事との二刀流はうまくできて、勉強も楽しいですね。各大学ではオンライン授業が確立されたことも大きいと思います。
――オンラインの充実。日本では今まで、なかなか進みませんでしたが、なんだかお尻に火がついて、一気に社会が変わりましたよね。ありがたいですよね。
壹岐 おかげで、スケジュール調整や交通費の負担が少なくなって行動の幅が広がりました。その分、情報量が凄く増えましたが、まぁ良く言うですね「玉石混交」の中から、いかに良い玉を取り出せるか。これが社会をうまく生きるポイントと思います。
――確かに。今、何学部ですか
壹岐 経営マネジメント学部です。
――科学や海とは関係のないところが、またいいですねぇ。
壹岐 あー、そうなんですよ。社長に大学入学を報告したところ「技術者が経営を学ぶのはすごい」と、感心されました。
――へー、社長さんも素敵
壹岐 はい。自由な社風のところも気に入っています。
――18歳で入社して、会社に「残る」か「出るか」の選択でも踏みとどまって40年。40年…ここで、何か思い出の曲をおかけしましょうか。
壹岐 そうですね。じゃあ、今はなきカセットにですね、好きな曲を録音して聞いていました。青春時代を思い出して、Atlantic Starrの『Always』(楽曲はYouTubeにリンクしています)
とにかく
学士の取得を目指します!
――今探している宝物はなんですか。
壹岐 それはもう、学士の取得です!それには、卒業をしないとですね!
――私も社会人大学生経験者です。必死で4年で卒業できましたが、4年制の社会人学生は卒業出来る人の方が少ないと聞いています。でも、壹岐さんならスイスイできそう。5年6年かかってもいいですしね。応援しています。
壹岐 ありがとうございます。
――今日はお話しを聞かせていただいたお礼にもう一杯いかがでしょうか。
壹岐 いいんですか、遠慮なくいただきます。
――はい。ごゆっくりお過ごしくださいませ。
壹岐 ありがとうございます。
番外編
――「環境部」の他には、どのような部門があるんですか。
壹岐 社内には大きく3つの部門があります。
自社の航空機で撮影するためのパイロットや撮影士がいる「運航部門」。そして、そこで取得した何億点ものデータをパソコンで処理して、詳細な図面を作る「空間情報部門」。それから、その結果に本や論文にある過去の知見も参考にして、考察や対策を提案する「コンサルタント部門」。私はそのコンサルタント部門の「環境部」にいます。
――「洋上風力計画」には住民からの反対意見などもありそうですね。とても難しそうです。
壹岐 そうなんです。洋上風力の計画では、単に情報を重ねる。そういう机上の理論だけではなく、地域住民や漁業者、役場の方々からの意見を取り入れて、関係の皆様から承諾を頂く、合意形成もとても重要になります。担当者の知識と熱意の「人間力」。これが大事です。
――それが一番難しいところでありそう。そういう印象もあります。壹岐さんも話合いなどの場に立たれたことはありますか。
壹岐 はい。実は3年前まで、徳島県で「洋上風力計画」を対応していました。でも、漁業者にはあまり理解はされず大変でした…。そこで、洋上風力を先進的に始めていた、長崎県の漁協組合長と対談をオンラインで公開してみたら、徳島の漁業者から、結構理解は得られた感じですね。やはり、私みたいな若造よりも、漁業の仲間同士の信頼が一番だと思いましたね。
アジア航測株式会社のホームページ⇒「こちら」
番組サイト『犬とあなたと珈琲と。』
インタビューと文:白田祐子(しらたゆうこ)
うり店長のInstagramは『こちら』
ル・ブラン湘南のInstagramは『こちら』
白田祐子(しらたゆうこ)
プロフィール:日本心理学会認定心理士。ヒトと犬の心と行動カウンセリングラボ「ル・ブラン湘南」代表/ドッグカウンセラー。
1990年代から犬の行動や心理を独学し、保護施設などでしつけのボランティア活動を開始。現在のパートナーは2005年生まれの雑種の女の子で名前は“うり”。
大学で心理学を専門的に学び、人と犬の関係や犬の心の成長の研究を行い独自のメソッドを確立する。2013年にパーソナルドッグカウンセリングを開始。人と犬のパーソナリティを重視したコーチングは特に多くの女性に支持されている。
里親制度の普及や地域行政と連携した“犬のしつけ”相談業務など、教育、行政、法律と多方面で人と犬の問題に向き合っている。
愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー、ペット災害危機管理士、小動物防災アドバイザー、猫防災アドバイザー他、ペット関連資格多数。湘南ビジョン大学講師。2014年より神奈川県動物愛護推進員。2019年よりFM83.1MHzレディオ湘南に出演中。